バブル初期に、「篠山紀信、東京を飛ぶ」という番組をつくったことがある。ヘリで篠山氏と一緒に飛んで45分間すべて空撮という前衛的な番組だったが、一緒にラッシュを見ていたとき、彼が「東京砂漠っていうけど、空から見ると本当に砂漠だね」とつぶやいた。いま思えば、これがバブルの原因だった。

ニューヨークの空撮を見ると、高層ビルが樹木のように見えるが、東京では、まるで砂粒をばらまいたようにどこまでも低層家屋が広がっている。借地借家法で借地権の保護が強すぎるため、再開発が進まないのだ。土地を買っても借地人が立ち退かず、裁判をやっても、集合住宅など多くの店子の権利関係が錯綜しているときは10年以上かかる。

ところが80年代後半に、金融の超緩和で過剰流動性が不動産に流れ込んだ。その資金を使って不動産業者やゼネコンが底地買いをし、店子を追い出すために使ったのが地上げ屋だった。一般には不動産を買い集めるのを地上げと呼ぶが、本来の地上げ屋は借地権の処理にあたる業者で、底地の本源的な地主は大手の不動産業者だった。

地上げ屋は、裁判で片づかない紛争をいかに早く片づけるかが腕だったので、非合法な手段に訴えた。家の前に街宣車を毎日出すとか、生ゴミを大量に捨てるとか、法律ぎりぎりの手段で店子が出て行くよう仕向けたのだ。西新宿6丁目の地上げをやった最上興産の社長は、殺人の容疑者だった前歴を売り物にしていた。当時マスコミは「ヤクザに追い立てられる弱者」と報道したが、実際には店子はぎりぎりまで補償金をつり上げ、地価の7割ぐらい取って立ち退いた。

しかしバブル崩壊で、こうした再開発も止まってしまった。最上興産の社長は国土法違反で検挙されて6丁目は焼け跡のような状態になり、新宿のゴールデン街は、地上げをやった本州興産が倒産して廃墟になった。最近、再開発が進んでいる土地は、そのころ底地買いが行なわれたところが多いが、途中で買収の止まった土地はいまだに砂漠のままだ。

世界最大の首都圏に平屋が広がる東京の風景は、既得権を守る「やさしい社会」が、結果的には都市再開発や新しい企業の参入をはばみ、非効率な資源利用と高コスト構造をもたらす日本の象徴である。有期雇用の規制強化をめざす民主党政権によって、労働市場も砂漠化するだろう。