民主党のデフレ脱却議連やみんなの党が「デフレ脱却法案」を秋の臨時国会に出す準備を進めているようだ。政党から問い合わせがあったので、政治家の先生方にもわかるように図解でやさしく説明してみよう。
デフレ脱却を目標にするのは結構なことだが、どうやって実現するのか、実現できなかったら誰がどう責任をとるのかというペナルティがなければ、努力目標にすぎない。できなければ日銀総裁を更迭するというのなら、どうやって「2~3%のインフレ」を実現するのか、法案を出す政治家が具体的に説明する責任がある。
彼らは、なんとなく日銀がジャブジャブ金をばらまけばデフレを脱却できると思っているようだが、それは錯覚だ。図のように2001年から2004年にかけて、日銀は量的緩和でマネタリーベースを激増させたが、市中に出回るお金(マネーストック)は増えなかった。
マネタリーベースとマネーストックの前年比伸び率(%)
その原因は、日本経済が金融政策のきかない流動性の罠に陥っているからだ。このメカニズムは、政治家のみなさんが学生時代にならったケインズ理論とはまったく違うので、少し込み入った説明が必要だ。
投資と貯蓄を均衡させて物価を安定させる実質金利を自然利子率r*とよび、図のようにIS曲線(貯蓄と均等化する投資水準)がGDPの自然水準Y*と交わる点で決まる。金利rがr*より低い場合にはプラスのGDPギャップ(Y-Y*)が生じてインフレ(あるいはバブル)が起こり、逆の場合はデフレが起こる。
経済が成長しているときは自然利子率もプラスだから、政策金利をr=r*となるように誘導すればよい。しかし今の日本のように「来年は今年より悪くなる」という予想が支配的だと、企業は金を借りないで貯蓄するため、IS曲線は下方にシフトし、自然利子率はr'のようにマイナスになる。
したがって金利rもマイナスにならないと均衡しないが、名目金利はゼロ以下にはならないため、ゼロ金利でも自然利子率より高くなり、マイナスのGDPギャップ(Y'-Y*)が残ってしまう。日銀が金利をゼロまで下げても、意図せざる金融引き締めが起こるのだ。これがクルーグマンのいう流動性の罠である。この状態でいくら資金を供給しても、資金需要がゼロ金利に対応するY'で飽和しているので、マネーストックは増えない。
そこで日銀が「インフレにするぞ」と宣言してインフレ予想を起こし、実質金利(名目金利-予想インフレ率)をマイナスにしようというのがクルーグマンの提案だが、そういう政策の実効性は疑わしく、彼も最近はいわなくなった。政治家の求める長期国債の買い切りオペも、長短金利差を縮めて平均金利をゼロに近づける効果はあるが、自然利子率がマイナスである限り、GDPギャップは残る。
このように金融政策が無効になっているときは、デフレ脱却というだけなら財政政策のほうが有効だ。たとえば「法人税率を10%に下げる代わり、それによる税収減を埋めるため、成長率が上がって税収が回復するまでのつなぎ国債を発行する」といった政策のほうが明確な効果があるだろう。
彼らは、なんとなく日銀がジャブジャブ金をばらまけばデフレを脱却できると思っているようだが、それは錯覚だ。図のように2001年から2004年にかけて、日銀は量的緩和でマネタリーベースを激増させたが、市中に出回るお金(マネーストック)は増えなかった。
マネタリーベースとマネーストックの前年比伸び率(%)
その原因は、日本経済が金融政策のきかない流動性の罠に陥っているからだ。このメカニズムは、政治家のみなさんが学生時代にならったケインズ理論とはまったく違うので、少し込み入った説明が必要だ。
投資と貯蓄を均衡させて物価を安定させる実質金利を自然利子率r*とよび、図のようにIS曲線(貯蓄と均等化する投資水準)がGDPの自然水準Y*と交わる点で決まる。金利rがr*より低い場合にはプラスのGDPギャップ(Y-Y*)が生じてインフレ(あるいはバブル)が起こり、逆の場合はデフレが起こる。
したがって金利rもマイナスにならないと均衡しないが、名目金利はゼロ以下にはならないため、ゼロ金利でも自然利子率より高くなり、マイナスのGDPギャップ(Y'-Y*)が残ってしまう。日銀が金利をゼロまで下げても、意図せざる金融引き締めが起こるのだ。これがクルーグマンのいう流動性の罠である。この状態でいくら資金を供給しても、資金需要がゼロ金利に対応するY'で飽和しているので、マネーストックは増えない。
そこで日銀が「インフレにするぞ」と宣言してインフレ予想を起こし、実質金利(名目金利-予想インフレ率)をマイナスにしようというのがクルーグマンの提案だが、そういう政策の実効性は疑わしく、彼も最近はいわなくなった。政治家の求める長期国債の買い切りオペも、長短金利差を縮めて平均金利をゼロに近づける効果はあるが、自然利子率がマイナスである限り、GDPギャップは残る。
このように金融政策が無効になっているときは、デフレ脱却というだけなら財政政策のほうが有効だ。たとえば「法人税率を10%に下げる代わり、それによる税収減を埋めるため、成長率が上がって税収が回復するまでのつなぎ国債を発行する」といった政策のほうが明確な効果があるだろう。