「アゴラ」で真野浩氏が指摘しているが、総務省の「ホワイトスペース特区」の事業者の大半はテレビ局で、技術はワンセグに統一されるようだ。世界的にはマイナーなISDB系の技術を国を挙げて推進する電波鎖国は、かつてのPDCを思わせるが、なぜこのように同じ失敗が繰り返されるのだろうか。

その第一の原因は、官僚機構に今も根強い重商主義である。最近は、政府が鉄道や水処理や放送技術を海外に売り込み、地デジは南米では成功したが、ブラジルでもっとも売れているのはサムスンのテレビである。重商主義はアダム・スミスの時代から、いつも政府の愛好する政策だ。今回はオバマ政権も「輸出倍増計画」なるものを打ち出しているが、こうした「近隣窮乏化政策」は軍備拡張と同じく、どの国も不幸にすることは歴史の教訓である。

第二の原因は、電波社会主義である。真野氏もいうように、FCCの電波政策は「技術は民間が選択する。行政は、他の帯域に干渉しないかぎり介入しない」という方針で、周波数オークションでも技術を特定しない。こうすると、おのずからもっとも効率的な技術が選ばれ、どんな用途にも使える汎用無線になる。

これは土地利用でいえば、土地を細分化しないで高層ビルを建て、サービス業者はその部屋を借りて営業するようなものだ。こうすれば土地の高度利用が可能になり、サービスが失敗しても店子が交代すればよい。たとえばアメリカで700MHz帯を落札したベライゾンはLTEを採用し、他のサービスはLTEを使って行なわれる。これは今後の世界標準になると予想されているので、放送サービスも汎用の携帯端末で行なえばよいのだ。

ところが総務省は、いまだに特定の周波数に特定の技術を割り当て、帯域ごとに固有の業務用無線にしようとする。これは一つの土地を細分化して一戸建ての家を建てるようなものだ。土地の利用効率は悪く、失敗しても他の人がその土地を使えないので、遊休化してしまう。土地より悪いのは、遊休化した不動産を転売する市場メカニズムがなく、地代もないため、失敗した業者が居座ってしまうことだ。

このような旧態依然たる電波行政の背景には、官僚の裁量を残すことによってその権力を維持したいという動機と、官僚がすべて知っているという無謬神話がある。先日のVHF帯のヒアリングで、民主党の議員が「電波監理審議会がわずか数時間の審議で技術を選べるのか」と質問したところ、情報流通行政局の大橋総務課長が「技術を選ぶのはわれわれプロフェッショナルだ」と答えたのには驚いた。

電監審は、諮問の当日に答申を出す極端に形骸化した審議会として有名で、委員には電波の専門家が一人もいない。官僚が決めて成功したならともかく、ハイビジョンもPDCも地デジも、失敗続きだ。ワンセグなどという「日の丸技術」でホワイトスペースの200MHzを浪費すると、ユーザーの損失になるばかりでなく、今度こそ日本の携帯端末業界は壊滅し、通信サービスは世界から孤立するだろう。