アゴラブックスの新刊(2003年の本の復刊)。内容は紙の本が出たとき、週刊ダイヤモンドで書評した通りだが、著者と最初に一緒に仕事をしたのは、15年前の住専問題の番組だった。それ以来、何度か一緒に仕事したが、不思議なほど意見が一致した。それは、われわれが90年代に日本の金融システムが「壊れた」現場を見たからではないかと思う。

日本経済は、大地震で傾いた建物を改修工事でごまかしてきたようなものだ。歪んだドアは取り替え、ひびの入った壁には上塗りして、今では当時の痕跡はないが、建物は今も少しずつ傾いている。あと数十年で倒壊することは確実だが、いつ倒壊するかはわからない。

建て替えなければならないことは誰もが知っているが、そのためには大きなコストがかかる。いま住んでいる人は、他の建物に一時的に移らなければならない。建て替えのメリットより引っ越しのコストのほうが大きい老人は「今のまま住んでいたい」と建て替えに抵抗する――これは集合住宅の建て替えで起こる紛争とそっくりである。

本書のテーマは不良債権で、著者は非常に悲観的だが、これはその後、小泉政権で一定の処理が行なわれた。しかしそれはリフォームのようなもので、壊れた日本の金融システムは、見た目は復旧したが、その非効率な構造は変わらない。そしてそれが異常な低金利やデフレという形で、日本経済の傾きを加速する・・・

日本経済の長期停滞の根底にあるのは、高度成長期にはそれなりに機能した金融機関や官僚機構などの調整メカニズムが機能不全に陥ったことである。著者もいうように、こうした質的な変化はマクロ変数では見えにくいので、経済学者は軽視しがちだが、いま必要なのは、まず建物が内部崩壊している事実を認識することだろう。

*アゴラブックスは、社会科学系の本で出版の実績があれば、復刊のお手伝いをします。出版社との交渉や契約などは当社でやり、著者と出版社に最大50%還元します。パブリックドメインで公開する場合は、電子化手数料だけで電子出版します。お問い合わせは窓口まで。