日銀の奇妙な「金融ターゲティング政策」が話題を呼んでいる。日銀自身が「奇手」と呼んで2年間の時限措置にしているように、彼ら自身もその効果を信じていない節がある。インフレ目標の意味も知らない政治家がうるさいので、「そんなにいうなら金をばらまいてやる」という牽制かもしれない。

それはさておき、ここに列挙された成長分野18項目には、「環境」とか「医療」とか民主党政権に迎合したような項目が並んでいるが、「情報通信」がない。かろうじて「コンテンツ・クリエイティブ事業」があるが、これはGDPの3%程度のすきま産業で、成長率も年1%ぐらいだ。10年前には政府が「IT戦略本部」を作ったほどの力の入れようだったのだが、情報通信はもう成長産業じゃないんだろうか?

ITが成長率に貢献しないという問題は、ソローのパラドックスとしてよく知られている。これは1987年にロバート・ソローの述べた次の言葉によるものだ:
You can see the computer age everywhere but in the productivity statistics.
しかし最近では、この問題は解決されている。むしろJorgenson-Motohashiの計測では、TFP(全要素生産性)上昇率の半分以上がIT部門によるものとされており、日米でそれほど大きな差がない。問題は、アメリカではIT利用部門(IT以外のすべての部門)のTFPが同じぐらい上昇しているのに対して、図のように日本ではIT利用部門のTFP上昇率が90年代以降、大幅に落ちていることだ。

tfp1
日本のTFP上昇率(%)

これにはいろいろな原因が考えられるが、根本的な問題はコンピュータやインターネットが汎用技術だということに求められよう。特に通信インフラは、蒸気機関や電力のようにそれ自体では何も生産しない。ネットワークを使って具体的なサービスを行うアプリケーションがないと、インフラだけ整備してもしょうがないのだ。

日本経済が行き詰まっている原因も、ここにある。「日本経済は成熟したのでもう成長しない」という宿命論は、TFPが大きく伸びたアメリカをみればわかるように誤りである。PCが普及したのにハンコや紙がないと手続きできない役所、ITで事務経費が大幅に減ったのに人件費を削減できない企業、そしてレガシー技術で顧客を食い物にするITゼネコン・・・こうしたIT利用の貧困が日本経済をだめにしているのだ。

ITは、今でも経済の最大のエンジンである。環境保護で成長するなんてナンセンスだが、日本の通信インフラは世界一で、成長のポテンシャルも大きい。それなのにIT産業がだめになるのは、新規参入と競争がないために賢いIT消費者が出てこないからだ。特に付加価値の低い工業製品が新興国との競争にさらされている今は、高度な情報サービスを開発するイノベーションが、IT産業の――そして日本経済の――立ち直る鍵である。