日本の税をどう見直すか (シリーズ・現代経済研究)菅首相のいう「第三の道」は非論理的でわかりにくいが、増税して福祉に使うということらしい。これはWSJもKan-sianと評しているように、ケインズ的な福祉国家の焼き直しである。政治家がきびしい現実を直視しないのは日本に限ったことではないが、本書の示す日本の財政の現状は、首相の振りまく「増税で成長する」という幻想を打ち砕くだろう。

最近、国債の需給が悪化して金利が上がるリスクがよく話題になる。バラマキ財政を支持する人々は「円建てで発行していれば問題ない」などというが、本質的な問題は国債の相場ではなく、片山=池田本でも論じたように世代間の負担の不公平である。

「無駄を省いてから」といって増税を先送りすると、税率はいま引き上げるより高くしなければならず、若い世代の超過負担が大きくなり、将来の増税の不安が消費を減退させる。本書の次のような提言は、多くの財政学者のコンセンサスだろう:
  • 消費税率をすみやかに引き上げる
  • 生活保護の不備を是正するために給付つき税額控除を導入する
  • 労働所得には累進課税し、金融・資本所得には20%程度の定率課税を行なう
  • 法人税率を引き下げ、租税特別措置を縮小する
増税を福祉の拡大に使うという首相の話も逆である。社会保障費は一般会計の30%を占め、高齢化によって毎年1兆円ずつ増えており、これを抜本的に見直さないと財政赤字の拡大は止まらない。給付つき税額控除をさらに進め、社会保障を税に一元化するのが負の所得税だが、本書も指摘するように日本の所得税は捕捉率が低いので、これは別の不公平をもたらすリスクもある。

負の所得税とベーシック・インカムは、所得の捕捉率が100%だったら同じである。いま課税前の所得をY、税率(一定)をt、課税最低限度額(控除額)をY*とすると、負の所得税の課税後所得Ynは、Y≧Y*の場合は課税前所得より小さくなり、Y<Y*の場合は大きくなるが、いずれの場合も次の式であらわせる:

Yn=Y-t(Y-Y*)=(1-t)Y+tY*

他方、ベーシック・インカムBを一律に支給する場合の所得Yb

Yb=(1-t)Y+B

したがってtY*=Bのとき、Yn=Ybとなり、両者は同一である。しかし負の所得税の場合は税の給付額がtに依存するので、所得捕捉率の低い自営業者などの所得がY*を超えていても不正に給付を受けることができるが、BIの場合は給付額は一定である。もちろん課税逃れはいずれの場合も起こるが、不正受給が起こらず事務処理が簡単な分だけBIのほうがすぐれている。