菅新首相の就任会見で気になったのは、次の部分だ:
小泉・竹中政権のときに、需要が足らない中で供給政策をやった。あのカルロス・ゴーンさんが日産の従業員を大リストラして、確かに日産は飛躍的に業績が上昇しました。しかし、売り上げが上昇したんじゃないんです。自動車の売り上げは変わらないけれども、経費が下がったんです。[・・・]デフレの状態でデフレ政策をとったために、まさにデフレという状況がこんなに長引いてしまった。これはどこかで読んだことがあるな・・・と思って調べてみると、本書の182ページの記述とほとんど一言一句おなじだ。
著者(小野善康氏)は菅氏の10年来の友人で、「コンクリートから人へ」というキャッチフレーズの考案者といわれる。彼は内閣府参与なので、首相がそれをまねるのは不思議ではないが、小野氏の理論は通説とは違う。標準的なマクロ経済学(ニュー・ケインジアン)では、長期の潜在成長率と短期の景気循環を考えるが、小野理論では短期の不完全雇用の場合だけを問題にする(長期ではニュー・ケインジアンと一致する)。
ニュー・ケインジアンでは失業の原因は価格や賃金の硬直性だと考えるが、小野氏は「消費の利子率」といった独特の概念で不均衡の原因を考え、価格調整よりも政府の介入のほうが有効だという。しかし彼の議論は、リストラによって生産性や潜在成長率が上昇する長期の効果を無視し、もっぱら短期の労働需要だけを問題にしている。
日産はリストラによって生産性が上がり、利益も上がったので設備投資も増やした。失業で労働の超過供給が増えれば、賃金が下がって人手不足の中小企業が労働者を雇いやすくなり、労働移動によって労働生産性も上がる。事実、2000年代前半には自動車産業を中心とする輸出産業の復調で景気は回復した。この20年間に成長率が上がってデフレも止まったのは、菅氏の非難してやまない小泉政権の時期だけだったのである。
さらに致命的なのは、こうした問題への処方箋として小野氏のいう「遊休している労働者をよい公共事業に雇用すれば経済はよくなる」という議論だ。これは「よい公共事業」とは具体的に何なのか、そしてどうすれば政府がよい公共事業だけを実施できるのかを示さないかぎり、単なるトートロジーである。池尾和人氏も指摘するように、政府が税金の「使い道を間違えない」保証はどこにもない。
全体として、小野氏の理論は「不況動学」と称しているが、その中身は長期の生産性を無視して短期の不均衡だけを問題にし、公共事業を重視する古いケインズ理論と変わらない。それは政府が全知全能であると想定しているので、社会主義者の菅氏には受け入れやすいのだろうが、政府がつねに賢明な経済政策を行なうことができるなら、日本経済はここまでボロボロになっていない。
菅氏は、小野理論をもとにして「雇用、需要に焦点をおいて財政出動をしていく」という「第2のケインズ革命」を提唱しているが、その結果は鳩山政権と同じバラマキ福祉になるだろう。「いのちを守る」とか「需要中心」とか名目は違うが、中身は相変わらずの社会主義路線である。不幸なことだが、日本経済が壊滅しないと彼らの目は覚めないのだろう。
ニュー・ケインジアンでは失業の原因は価格や賃金の硬直性だと考えるが、小野氏は「消費の利子率」といった独特の概念で不均衡の原因を考え、価格調整よりも政府の介入のほうが有効だという。しかし彼の議論は、リストラによって生産性や潜在成長率が上昇する長期の効果を無視し、もっぱら短期の労働需要だけを問題にしている。
日産はリストラによって生産性が上がり、利益も上がったので設備投資も増やした。失業で労働の超過供給が増えれば、賃金が下がって人手不足の中小企業が労働者を雇いやすくなり、労働移動によって労働生産性も上がる。事実、2000年代前半には自動車産業を中心とする輸出産業の復調で景気は回復した。この20年間に成長率が上がってデフレも止まったのは、菅氏の非難してやまない小泉政権の時期だけだったのである。
さらに致命的なのは、こうした問題への処方箋として小野氏のいう「遊休している労働者をよい公共事業に雇用すれば経済はよくなる」という議論だ。これは「よい公共事業」とは具体的に何なのか、そしてどうすれば政府がよい公共事業だけを実施できるのかを示さないかぎり、単なるトートロジーである。池尾和人氏も指摘するように、政府が税金の「使い道を間違えない」保証はどこにもない。
全体として、小野氏の理論は「不況動学」と称しているが、その中身は長期の生産性を無視して短期の不均衡だけを問題にし、公共事業を重視する古いケインズ理論と変わらない。それは政府が全知全能であると想定しているので、社会主義者の菅氏には受け入れやすいのだろうが、政府がつねに賢明な経済政策を行なうことができるなら、日本経済はここまでボロボロになっていない。
菅氏は、小野理論をもとにして「雇用、需要に焦点をおいて財政出動をしていく」という「第2のケインズ革命」を提唱しているが、その結果は鳩山政権と同じバラマキ福祉になるだろう。「いのちを守る」とか「需要中心」とか名目は違うが、中身は相変わらずの社会主義路線である。不幸なことだが、日本経済が壊滅しないと彼らの目は覚めないのだろう。