きのうのUstream中継で、FTTHについてはともかく、700MHz帯については全員の意見が一致した。おもしろかったのは、ツイッターの「ソフトバンクは700/900MHzペアでOKしたんじゃないのか」という質問に、松本徹三さんが「最初は当社もITSやFPUの見直しを訴えたが、電波部に却下された。電波部の決定は絶対なのであきらめていたが、今回は大臣が再検討を指示したので、当初の主張をあらためて申し上げる」といったことだ。

日本の官僚機構の特徴は、その極端な手続き的整合性の重視である。真珠湾の前夜にも、陸軍省整備局の報告では、日米の戦力や補給力に大きな差があり、2年以上は戦えないとされていたが、東條内閣は企画院に生産力を誇大に見積もった報告を出させて御前会議を強行突破した。その後も戦争を避けようと努力する近衛首相を、東條陸相は「それは方針を決める時にいうことだ。決まった以上は断固としてやり抜くしかない」と叱りつけ、近衛は辞職した。

このように結果よりも過去の経緯を重視する前例主義は、霞ヶ関に独特の意思決定方式によるものだ。表向きは官僚は審議会に「諮問」し、「学識経験者」の結論をもとにして決めることになっているが、実質的な意思決定は諮問した段階で決まっている。諮問の前に電波部は各業界からの「ヒアリング」を繰り返してコンセンサスを得ているので、審議会が電波部=業界の総意を否定することはできないのである。

ある委員会のメンバーは「電波部が電波をくれなかったらキャリアは死ぬので、反対できない。電波部の方針は何年も前から決まっていて、それを前提にして各社も開発を進めているので、電波部も過去の約束を破ることができない」といっていた。別のメンバーは「電波の世界は、既存キャリアとベンダーと電波部の利害が一致している。新規参入で干渉などの問題が出ることを恐れるので、異分子を極度にきらう」といっていた。

こうした前例主義の歯止めになるのがメディアの監視だが、電波の場合にはメディアが既得権をもつ当事者なので、テレビ・新聞にはまったく出ない。しかし今回の問題では、孫正義氏がツイッターで原口総務相に直接よびかけ、それに答えて大臣直属の周波数検討ワーキンググループができた。このように電波部がいったん決めた周波数割り当てを大臣が「再検討」させるのは、総務省はじまって以来の事件だという。これは原口氏の「政治主導」の成果である。

特に電波のように既得権が複雑にからんだ行政では、業界との過去の約束を守っているかぎり、改革はできない。インカンバントがその帯域を何十年使ってきたかというサンクコストは無視し、今後の周波数効率だけを考えて電波を配分すべきなのだ。この意味では、事業仕分けが過去の経緯をを無視して費用対効果を問うことによって官僚の前例主義を打破したように、電波行政の改革もforward-looking costだけを考える合理的な行政への第一歩となるかもしれない。