日本の経済政策が混乱している原因は、経済閣僚がマル経しか知らない団塊世代で、ケインズ理論さえ理解していないことにある。乗数理論を知らない菅直人氏などはまだいいほうで、東大経済学部でマル経をたたき込まれた亀井静香氏は確信犯的な社会主義者だ。この世代はどうしようもないとして、官邸や財務省のスタッフには基礎学力があるので、経済学の知識をアップデートしてほしい。英語が読めればMankiwがベストだが、本書は日本語で書かれた初の本格的なニューケインジアンの教科書である。
特に注目されるのは、「流動性の罠のもとでの安定化政策」(p.353-)に1節をあてている点だ。基本的な論点は
- 政府の「景気対策」のような裁量的な政策は、時間非整合性によって市場を混乱させるので望ましくない。
- インフレ目標やテイラールールのような受動的ルールによる政策が望ましい
- ただし流動性の罠に入ると、人為的にインフレを起こすことはむずかしい
- GDPギャップを埋める手段としては財政政策のほうが有効だが、むだな公共事業に税金が浪費されるリスクが大きい
- 流動性の罠では金利操作がきかないので、中央銀行がインフレ期待を起こすコミットメントができない
- 「何かの理由でインフレになっても金融緩和を維持する」というのが時間軸政策だが、いつインフレになるかわからないので効果は弱い
- しかし実際にインフレになったら中央銀行はそれを抑制すると予想されるので、市場はそれを織り込んでマネーストックは増えない
- インフレ目標は裁量的なバイアスをなくす受動的ルールなので、それを中央銀行が「あらゆる手段で実現する」というターゲティングは、インフレ目標の精神と矛盾している