先月、エクアドルが「日本方式」による地上デジタル放送の採用を決定した。総務省は、これを機に「日本方式」を世界に売り込みたいと意気込んでいるが、結構なことだ。せっかくだから、この「日本方式」を日本でも採用してはどうだろうか。

実は、すでにブラジルで放送が開始されている南米方式(SBTVD)は、日本の地デジ(ISDB-T)をベースにしているが、それとはまったく異なる規格で、日本のテレビでは映らない。符号化方式はH.264で、多重化方式もSFNである(詳細なスペックはここ)。

H.264はワンセグやBDなどで使われている技術で、圧縮効率は日本の地デジ(MPEG-2)の2倍以上なので、1チャンネルあたりの周波数は、今の6MHzから3MHz以下に圧縮できる。またSFNを使えば各県域ごとに1波でよいので、NHKからテレ東までの7波に独立系を加えても、10波(30MHz)あれば十分だ。こうすれば、地デジは470~500MHzに収容でき、残りの500~800MHzはすべてモバイルに使える。

もっといいのは、VHF帯のガードバンドで放送することだ。たとえば東京では、2、5、7、9、11チャンネルの合計5チャンネル=30MHzが空いているので、すべての地デジ局がぴったり収まる。VHFのカバー率は100%なので、ユニバーサルサービスの問題もない。こうすれば、470~806MHzの336MHzがすべて移動通信に使え、日本は世界最先端のモバイル先進国になるだろう。

南米方式に変更するには中継局の周波数を変える必要があるが、これは「アナアナ変換」のように置局の場所を変更するわけではないので、数十億円ですむだろう。テレビ局の占拠している300MHzの帯域の価値は約4兆円(130億円/MHz)だから、移行費用をすべて携帯業者に負担させてもいい。FCCの提言しているように「電波の市場」を創設して周波数を取引すれば、テレビ局にとっても莫大な収入になる。

テレビ局は、もう「店じまい」の時期だ。広告収入が激減する中で、現在の大規模なネットワークを維持するのは不可能である。10年以内に地方民放はほぼ全滅し、キー局もTBSのようにテレビを副業にし、「放送もする不動産業者」になるのが賢明だ。この機会に通信業者に電波を売って撤退し、最終的には地上波放送をやめて通信衛星に集約するのが正解だろう。

追記:H.264にするには受信機側にもコーデックが必要だが、これはチップ1個で安いものだし、携帯業者に負担させてもよい。今からアナウンスすれば、電機メーカーがテレビに内蔵できる。