きょうの原口総務相の記者会見は、日本の電波行政の歴史に残るものだった。総務省内はパニック状態だったそうだが、これこそ真の「政治主導」だろう。原口氏はこう述べた:
2011年7月24日、完全デジタル化に向けて、私たちは電波の再編成ということを考えています。現在の電波の状況について、しっかりと精査をするようにと。この中には、例えて言うと、高速道路の中に自転車道が何本もあるのではないか。その結果、世界標準とずれるということになれば、正に日本はまた、競争の基盤を失う、あるいは損なうということになりかねません。したがって、電波がどのような監理をされるべきかということを、政務三役会議でも議論しましたけれども、更に調査を徹底し、そして公正でダイナミックな世界の競争の先頭を行けるような標準的な電波の再編、これを目指してまいりたいと考えています。
「高速道路と自転車道」というたとえは当ブログの記事と同じだが、原口氏の発言は実はそれより踏み込んでいる。「周波数(道路)は用途を細分化しないで、広いまま(汎用の帯域として)使うべきだ」という電波行政の大転換を意味しているのだ。これについては、7年前に私が『経済産業ジャーナル』で描いた次の図がわかりやすいだろう。
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今の周波数割り当ては、図の上のように地域防災無線、タクシー無線、船舶無線など用途別に細かく割り当てられている。このうち、たとえば地域防災無線は毎日5時に音楽を鳴らすだけだが、それ以外の時間に電波があいていても他の用途に使うことができない。このような用途制限をやめ、図の下のように広い帯域を自由に使えるようにすると、あいている帯域で自由に通信できるので、LTEのような高速無線が可能になるわけだ。

具体的には、地上デジタル放送では240MHz(470~710MHz)を最大7チャンネルで使う。テレビ1チャンネルは6MHzだから、40車線分の道路を7車線しか使わないので、残り33車線はホワイトスペースとして使える。さらに710MHz以上も、テレビ局がFPU(マラソン中継)に浪費している帯域(770~806MHz)を開放すれば約100MHzが使える。

LTEは1チャンネル20MHzあれば最高の性能が出るといわれているので、これによって5社が参入でき、競争によって料金は大幅に下がるだろう。さらに大事なのは、770~800MHzが使えれば欧州・アジアと同じ周波数が使えることだ。これによってノキア・フアウェイなどの大手メーカーの端末が日本で使え、逆に日本の端末も世界に輸出できる。日本企業の国際競争力を高めるには、グローバルな競争にさらすのが一番である。

政府が個別産業を育成する「成長戦略」なんて絵に描いた餅でしかないが、規制撤廃や制度設計において政府の果たすべき役割は大きい。特に無線通信では、日本メーカーの技術はまだ世界最高水準なので、今のうちに周波数を国際標準にあわせてグローバルに通用する技術を開発すれば、日本のIT産業全体がよみがえることも期待できよう。

こうした問題も、16日のシンポジウムで議論する。全米ブロードバンド計画の邦訳も、多くの関係者に読んでいただきたい(これは仮訳なので、最終版は当日配布する)。