鳩山首相が、法人税の減税に言及した。今週のJBPressにも書いたが、日本の実効法人税率が主要国できわだって高いことが、日本経済の活力を奪っているので、これは日本経済が立ち直るための手がかりとなろう。

ただ「法人税を減税すれば投資が増える」というのは、国内企業については正しくない。投資水準は(ケインズ的にいえば)投資の限界効率で決まるので、税引き後利益が増えてもそれほど増えるわけではない。重要なのは国際資本移動への効果である。シンガポールでは13%しか課税されないのに、日本ではその3倍も取られるのでは企業の海外逃避が起こり、対内直接投資も昨年はGDPのわずか0.2%である。

左の図はアメリカとそれ以外のOECD諸国の法人税率の比較だが、アメリカの税率は日本とほとんど同じだ。このように差が開いた原因は、欧州の経済統合にともなって域内の資本移動が容易になり、特に大企業の本社が税率の低いリヒテンシュタインやルクセンブルクなどに集中したことにある。そのため、各国は税収を失わないために法人税率を下げざるをえなかったのだ。事実、ここ10年でEUの法人税は約10%下がったが、税収はほとんど変わらない。日米が高いのは資本移動が困難だったためだが、日本の場合はシンガポールや中国との競争が激化している。

この租税競争はどこまで行くだろうか。ゲーム理論で考えれば、答は明白だ。この競争は「囚人のジレンマ」なので、税率をゼロに限りなく近づけた国に世界中の企業が集中するのが唯一のナッシュ均衡(かつ支配戦略)であり、これを避けることはむずかしい。グローバル化の拡大にともなって「底辺への競争」は加速するだろう。各国がいかに租税条約でカルテルを守ろうとしても、競争の勝利者はケイマン諸島である。

OECDなどが、タックスヘイブンを「脱税の温床だ」として取り締まるのは筋違いである。フリードマンやブキャナンなど200人の経済学者が主張するように、法人税は不合理な二重課税で、企業の資産構成をゆがめて過剰債務の原因となる。税理論としては、法人税を廃止して所得税は個人に一元化することが望ましい。正しいのは、OECDではなくケイマン諸島なのだ。

法人税の減税は、民主党政権で初めて出てきた正しい経済政策である。政府が経済を正しく予測してコントロールできるというのは幻想であり、有害無益な「**振興政策」はやめるべきだが、税制と規制の改革だけは政府にしかできない。これを機に、民主党が選挙むけのポピュリズムから脱却し、経済学者の意見に耳を傾けて、まともな経済政策に方向転換することを望みたい。