バブルは別の顔をしてやってくる(日経プレミアシリーズ)バラマキ派やリフレ派がよくいうせりふに、「不況のときインフレの行き過ぎを心配する必要はないんだから、思い切りばらまけ」という話がある。たしかに中央銀行のコントロールがきくようになったCPIの急激な上昇は、ここ30年ほど起こっていない。しかし資産インフレ=バブルは以前より頻繁に起こるようになった。

80年代後半の日本では、「円高不況」を救済するために行なわれた低金利政策で不動産バブルが起きた。2000年代初頭のアメリカでは、ITバブル崩壊後の不況に対してFRBの行なった金融緩和で住宅バブルが起きた。同じころ日銀の行なった量的緩和によって円キャリー取引が起こり、資金がドルに流れ込んで住宅バブルを加速した。いずれの場合もCPIは落ち着いていたので、中央銀行はインフレを警戒しなかった。バブルはつねに人々の予想を裏切り、「別の顔」をしてやってくるのだ。

これから起こりうるバブルとしては、本書もあげるように新興国バブル環境バブルが考えられる。特に後者は、政府がバブル形成の主役になっている点で深刻である。たとえば太陽光発電のエネルギー単価は原発の10倍だが、政府は電力の固定価格買取制度などによってこの非効率なエネルギーを支援している。また「エコポイント」などの補助金でハイブリッドカーなどの売れ行きが激増しているが、これは需要の先食いであり、補助金が切れると売れ行きが大幅に落ち込むだろう。

19世紀の鉄道バブルや20世紀初頭の自動車バブル、あるいは1970年代のPCバブルや90年代のインターネット・バブルなど、バブルは一時的には投機の過熱を引き起こしたが、長期的には次世代の産業に資金が流入して新しい企業が育つきっかけになった。しかし環境問題というのは一部の「エコロジスト」が騒いで政府が推進しているだけで、長期的にも無意味な「泡」にすぎない。

もう一つは国債バブルだろう。これは欧州の財政危機で、崩壊のリスクがかなり切迫してきた。金融担当相が「財政赤字はフィクションだ」と公言し、増税について首相や財務相の発言が二転三転する民主党政権が、この危機を管理できるかどうかは疑問だ。国債の日銀引き受けを求める人々は、デフレを止めるためなら財政が破綻してもかまわないと思っているのかもしれないが、今や焦点はデフレではなく財政赤字なのである。