言論アリーナでロンボルグも有馬さんも強調したのは、地球温暖化対策には莫大なコストがかかるということだった。温暖化を止めるという理想に反対する人はいないが、そのコストがどれぐらいかかるのか知っている人は少ない。
おまけに脱炭素化のコストは、ウクライナ戦争で激増した。再エネをバックアップする天然ガスの価格が上がったからだ。ロンボルグの住んでいるデンマークは再エネ100%で電力を供給しているが、図のように電気代は世界一高く、日本の2倍である。

費用対効果はどうだろうか。IEAの提唱した「ネットゼロ」のメリットは毎年4.2兆ドルだが、そのコストは毎年25.5兆ドル。コストはメリットの6倍である。温暖化対策のコストは、多くの政治家や国民が考えているよりはるかに大きく、そのメリットは先進国ではほとんどない。

「ネットゼロ」の便益と費用
日経新聞は「カーボンゼロ」でもうかると思っているが、もし脱炭素化がビジネスチャンスだったら、各国が交渉してCO₂を削減する必要はない。ほっておけば、みんな競って脱炭素化するだろう。脱炭素化はコストであり、課税なのだ。
再エネ先進国は電気料金も最高
特に最近は、欧州のエネルギー価格の上昇が激しい。「脱炭素化を進める」といいながら、天気の悪いときはロシアから供給される安い天然ガスでエネルギー供給していたが、そのガスがウクライナ戦争で遮断されたからだ。
イギリスのエネルギー価格
脱炭素化というが、デンマークのような小国を除くと、再エネ100%で電力を供給できる国はない。ほとんどの国では(水力を除く)再エネ比率は半分以下であり、今でも最大のエネルギー源は化石燃料なのだ。
ウクライナ戦争は、こうした「脱炭素化先進国」の実態を暴く結果になった。再エネ比率が全米で最大のカリフォルニア州の電気料金は(アラスカ・ハワイを除いて)全米一で、平均のほぼ2倍である。

こうなった原因は再エネ100%をめざして石炭火力をやめ、ガス火力を減らしたためだ。カリフォルニアは気候に恵まれているので、太陽光や風力でまかなえる電力は多いが、それでも悪天候の日には4000万人の人口の電力をまかなうバックアップ電源が必要だ。
ところがニューサム知事は蓄電池の義務づけでバックアップをしようとしたため、電源コストが上昇したのだ。カリフォルニアでは過去に電力危機で知事がリコールされた歴史もあるため、彼は廃炉にする予定だったディアブロ・キャニオン原発の運転延長を決めた。
温暖化対策のコストは、多くの政治家や国民が考えているよりはるかに大きく、そのメリットは先進国ではほとんどない。最近ようやくイギリスのスナク首相がそれに気づいたようだが、トランプ大統領が再選されれば、世界の流れが一挙に変わるだろう。