民主党政治の正体  角川SSC新書鳩山政権が政権末期の様相を呈し、自民党もわけのわからない復古政党になろうとしている今、みんなの党の存在感が高まっている。著者(渡辺喜美代表)も『文藝春秋』で、中川秀直氏に「新旧分離」によって自民党を「清算会社」にしようと呼びかけていた。河野太郎氏は今のところ、みんなの党に合流する気はないようだが、このまま参院選に突入すると、自民党の惨敗は必至だから、みんなの党が「存続会社」として政界再編の受け皿になる可能性もある。

本書の前半は民主党批判だが、これはありきたりで大しておもしろくない。重要なのは、後半のみんなの党の政策を説明した部分で、総選挙のマニフェストとは微妙に変化している。中心になっているのは、著者が自民党時代に心血を注いだ公務員制度改革で、これについては私も賛成だ。ただその根幹は彼の書いている「1940年体制」より古く、明治憲法のもとでできた部分が多い。マッカーサーでさえ壊せなかった官僚機構を、みんなの党が壊せるのかどうかははっきりしない。

不可解なのは、これから最大の政治問題となる財政再建や税制についてほとんどふれていないことだ。「増税の前にやるべきことがあるだろう!」という程度では、民主党の無責任財政と変わらない。財源を「埋蔵金」で捻出しようとしているようだが、それは国債の償還財源の先食いにすぎない。政府の純債務はGDPの55%だというが、これは特殊法人などを清算して出資金を回収することが前提になっており、官僚機構の解体と同様、本当に実行できるかどうかは疑わしい。

成長戦略で「所得再分配ではなく生産要素の効率的な再配分が重要だ」と書いているのはいいが、具体策となると「エコ」「アジア」「サイエンス」といった民主党や自民党とよく似た産業政策しか出てこない。マニフェストにあった派遣労働規制がなくなったのは一歩前進だが、生産要素を再配分する労働・資本市場改革の方向性が見えない。少なくとも八代尚宏氏が書いているような労働市場改革を示してほしかった。

マクロ政策では、バラマキ財政やバラマキ福祉を否定しているのはいいが、金融政策の効果を過大視している。日銀との「アコード」によってインフレ目標を設定するというが、ゼロ金利状況でどうやってインフレを起こすのかという点については、「非伝統的金融政策」でお金をばらまけば(なぜかはわからないが)インフレが起こるだろうとしか書いてない。日銀にも学界にも相手にされていないリフレ政策をいまだに掲げているのは、「われわれは経済の素人です」と宣言するようなものだ。

全体に高橋洋一氏の影響が濃厚で、政府紙幣などという荒唐無稽な政策も提唱している。私は彼の手がけた構造改革には全面的に賛成だが、彼が実務をやったわけでもなく専門でもない金融政策は、間違いだらけで読むに耐えない。著者は「経済学の教科書は読んだことがない」と公言しているが、経済運営は勘と経験だけでできる仕事ではない。高橋氏からの耳学問でいい加減な政策を出さないで、ちゃんと経済学の勉強をしてほしい。

結論としては、経済政策の相対評価では、みんなの党>民主党>自民党だが、絶対評価ではどの党も「不可」である。最悪の自民党が参院選で「清算」されるのはいいことだが、みんなの党が野党第一党になっても、民主党を脅かす存在になるには時間がかかるだろう。国会だけではなく、ネットも含めた多くのメディアで、きちんとした政策論争が行なわれる必要がある。