きのうツイッターで、藤末健三議員のブログ記事が話題になった。まず単純な事実誤認として、労働分配率の問題を「上場企業の利益の3分の1が配当に回っている」という配当性向と混同しているが、それは大したことではない。私が驚いたのは、
2.最近のあまりにも株主を重視しすぎた風潮に喝を入れたいです。
今回の公開会社法にて、被雇用者をガバナンスに反映させることにより、労働分配率を上げる効果も期待できます。
という部分だ。思わず「『最近のあまりにも株主を重視しすぎた風潮』ってどこの国の話ですか?」と突っ込んでしまったのだが、これは藤末氏の持論らしい。彼は2年前の記事でも、経産省の北畑隆生次官(当時)を擁護して「株主至上主義の資本主義には問題がある」と書いている。

藤末氏(および北畑氏)の「会社は株主だけのものか?」という問いに対する法的な答は明確だ。以前の記事でも説明したように、会社法105条に定める意味で株式会社は株主だけのものである。法律にはそれしか書いてない。こんな簡単なことを、経産省の事務次官も国会議員も理解していないのは驚くべきことだ。藤末氏の出しているグーグルの話は「会社が株主のものではない」という反例にはなっていない。それは種類株という特殊な種類の株主にすぎない。

牧野洋氏も指摘するように、日本の経営者は「株主を重視しすぎる」どころか、いかに株主を無視して自分の地位を守るかに多大なエネルギーを費やしている。藤末氏の話は1980年代に欧州で流行した「ステークホルダー資本主義」というやつだが、そんな流行はとっくに終わり、株主資本主義がもっとも効率的なガバナンスだというのがTiroleの結論である。

特に藤末氏の実現しようとしている「労働者管理企業」は、資本を浪費して賃金として分配してしまうバイアスが強く、ユーゴスラヴィアを初めほとんどの国で失敗に終わった。2000年代なかばに日本の労働分配率が下がったのはガバナンスとは関係なく、図のように景気が回復したからだ(灰色の景気後退期には分配率が上昇している)。労働分配率は「賃金/GDP」だから、賃金が一定でもGDPが上がると下がるので、上げるには不況にすればよい。事実、2008年度の労働分配率は史上最高になった。


労働者管理企業をめざす公開会社法は、日本をユーゴのような社会主義にし、株主の投資に労働者や他の雑多な「ステイクホルダー」がただ乗りすることを容易にして、ただでさえ低い株主の投資意欲をさらに減退させ、日本の成長率をマイナスにするだろう。磯崎さんも嘆くように、exitの見通しが立たなければ起業なんてできるはずがない。

要するに、民主党の「成長戦略」も公開会社法も、日本の直面する問題をまったく逆に見ているのだ。いま日本に必要なのは所得の再分配ではなく、リスクをとって新しい事業にチャレンジするアニマル・スピリッツを高め、投資を喚起して成長率を高めることである。いくら労働分配率を上げても、その分母(GDP)が縮小しては何にもならないだろう。

追記:民主党のプロジェクトチームのメンバーは、Tiroleの教科書を読めとはいわないから、その第1章だけでも翻訳して全員が読むべきだ。