未確認情報だが、事実とすれば重要なので書いておく。技術的に誤りがあるかもしれないので、訂正があればコメントしてください。

通信業界の関係者によれば、2012年から710~730MHzを使う予定のITSは、利用不可能になるおそれが強い。その原因は、地デジの受信機にITSの電波が飛び込んで干渉を起こすためだ。現在は700MHz帯を使ってアナログと地デジの放送が行なわれているが、2012年までにはアナログを停波し、地デジの電波も710MHz以下に移行して、干渉の問題は起こらないはずだった。しかし710MHz以上の放送が行なわれていない地域でも干渉が起こるらしい。

その原因は、地デジの受信機が770MHzまで受信する仕様になっているためだ。こういうノイズも、地デジ同士なら問題は起こらない。隣接する中継局の電波は、少しでも弱ければフィルターでカットできるからだ。ところが、ある家がITSや携帯の基地局のそばにあってテレビ局から離れている場合は、地デジの電波よりノイズのほうが強くなる。フィルターは広帯域なので770MHzまで一括して処理するため、LNA(low noise amplifier)がノイズも一緒に増幅してしまう。(*)

この初段の増幅回路で信号が飽和してIMD(inter-modulation distortion)が発生すると、必要な電波だけを抽出したあともIBOC(in-band off-channel)干渉が残り、テレビの映像にノイズが出るなどの障害が起こる可能性がある。それがどの程度強いかは、フィールド実験をしてみないとわからないが、IBOC干渉はLNAの回路の中で起こる電気的なひずみなので、周波数がかなり離れていても起こると予想され、地デジに隣接するITSは確実にアウト、730~770MHzまでを使う予定の通信も、少なくともダウンリンクは無理だと関係者は話している。

これが事実だとすれば、総務省の「周波数再編アクションプラン」は、もっとも重要な700MHz帯で根本的な変更を迫られることになる。710~770MHzは2001年に地デジの計画が決まったとき、通信業者の払う電波利用料を「アナアナ変換」に1800億円流用する見返りに通信業者に割り当てるという取引が行なわれたものだ。ところが結果的に、この帯域が通信に使えないとなれば、この取引は空手形だったことになる。

もちろん2012年以降に出荷されるテレビは、710MHz以上の電波を受けない仕様になるはずなので問題は起きないが、これまでに製造された5000万台以上のデジタルテレビは770MHzまで受信する。これは平均10年ぐらいは使われるので、このままでは2020年ごろまで470~770MHzは地デジ以外には使えないかもしれない

こんな基本的な問題が今まで見落とされていたのは、いったん710~770MHzを地デジに割り当てた上で、2011年のアナログ停波後に地デジの帯域を「リパック」して周波数変更し、1年後に710MHz以上をあけるという変則的な割り当てが行なわれるためだ。このとき受信する電波そのものは710MHz以下になるが、機器はすべて770MHzまで受信するため、そのノイズが回路の中で障害を起こす。

対策としては、これまで出荷されたテレビや関連機材すべてにアダプターをつけて710MHz以上の電波を受信しないようにすることが考えられるが、これには莫大な工事費がかかり、視聴者がコストを負担するとは思えない。もう一つは470~770MHz全体をホワイトスペースとし、地デジと干渉を起こさない技術を開発することだ。その候補は、地デジと同じOFDMによるワンセグのような方式だ。これは国際標準とは異なるが、このような非常事態ではやむをえないかもしれない。

(*)コメントに従って記述を修正した。