Too Big to Fail: The Inside Story of How Wall Street and Washington Fought to Save the FinancialSystem---and ThemselvesNYタイムズの記者が克明に記録した、昨年の金融危機のドキュメント。バブル崩壊のような非線形の出来事は、あとから分析しても本質はわからない。当事者が事前にどう考えていたかをリアルタイムで再現し、彼らがシステマティックに誤った原因をみる必要がある。この点で、本書が考えさせられるのは2点だ。

第一に、ポールソン財務長官やバーナンキ議長を初めとする政策当局は、2007年初めから問題の大きさを認識していたが、政治家がまったくそれを理解せず、もうけすぎたウォール街に同情する声はなかった。リーマンのファルドCEOも、2008年春のベア・スターンズ破綻の後から経営危機を自覚して出資を得るために奔走していたが、それが金融業界全体の危機だと思っている金融機関はなく、「ざま見ろ」といった冷たい反応が多かった。

第二に、リーマンブラザーズを政府が救済すべきだという意見が、業界にもメディアにもほとんどなかった。ベア・スターンズとGSEの救済で、ポールソンを"Mr. Bailout"と非難する声が高まり、モラルハザードへの懸念が強まった。FRBが投資銀行に緊急融資する制度も整備されたので、ルールに従って破綻処理すべきだという「正論」で、WSJからNYタイムズまで一致していた。政府出資が政治的に不可能なので、ポールソンはLTCMのような「奉加帳方式」による救済の道を最後までさぐったが、業界の危機感が薄いため、そういう枠組もできなかった。

200人の関係者にインタビューしたそうで、リーマンブラザーズ破産までの1週間だけで200ページ近くある。分刻みで関係者の会話や電話の内容を記録しており、あまりの細密さにいささか辟易するが、これ以上くわしいドキュメントは不可能なので、リーマン事件を語る貴重な資料となろう。まるで「24」のようにいろいろなシーンがカットバックで出てくるので、このまま長編TVドラマになると思う。最後に世界経済を救うジャック・バウアーが出てこないのが残念だが。