けさの朝日新聞に「デフレとどう闘うか」というテーマで、池尾和人氏と岩田規久男氏の主張が紹介されている。世間では「構造改革派vsリフレ派」と見ているのかもしれないが、両者の事実認識は次の点ではそれほど大きな違いはない:
  1. 現在の日本はデフレ状況にあり、これは好ましくない
  2. 日銀がインフレ目標を設けることには意味がある
  3. 量的緩和などの非伝統的な金融政策には一定の効果がある
違うのは日銀の政策についての評価で、次のように主張するのは岩田氏だけだ:
  1. 日銀はデフレを放置し、「デフレ誘導」を行なっている
  2. 「日銀は何もできない理論」によって日銀は対策をサボってきた
  3. 国債の日銀引き受けによって通貨供給を増やすべきだ
1は明らかに事実誤認である。日銀が意図的にデフレ誘導を行なった事実はない。こういう悪意ある表現が、日銀が彼の話に耳を傾ける気を失う原因になっているのではないか。3のような非伝統的金融政策については、彼の著書でも「円キャリーがアメリカの住宅バブルの一因だった」と認めているのだから、副作用にも言及しないとバランスを欠く。他方、池尾氏だけが主張するのは次のような点だ:
  1. 日銀がインフレ目標を宣言すればインフレ予想が起こるとは限らない
  2. 非伝統的な金融政策には副作用があり、慎重に行なうべきだ
  3. 本質的な問題は労働生産性を高めて潜在成長率を上げることだ
3の不況の主要な原因が短期の景気循環なのか長期の潜在成長率の低下なのかという論点について、池尾氏は後者だと見ているようだが、岩田氏にはそういう論点そのものが欠けている。「まずデフレを止めてから成長戦略を考えればよい」ということなら、いつまでもデフレが止まらなかったら生産性を上げなくてもいいのだろうか。

ただ岩田氏が繰り返しいうように、日銀のデフレについての表現が慎重すぎることは事実だろう。日銀はいつも金融業界のプロとしか接していないので、一般国民向けのコミュニケーションがへただ。過去に激しく量的緩和をやった割には大した効果がなかったことがトラウマになっている面もあるが、白川総裁ももう少し明るい顔で記者会見したほうがいいのではないか。首相官邸だけでなく、日銀にもメディア戦略が必要だろう。