大西宏氏からコメントをいただいたが、「競争さえ促進すれば経済は成長するのだろうか」という問いへの答は、もちろんNOである。競争を促進しなければ成長しないが、その裏(競争を促進すれば必ず成長する)は正しくない。むしろ本質的な問題は、日本人がみんな「草食系」になってアニマル・スピリッツを失っていることだ。この点、中国人はみんな元気だ。たとえば当ブログへのコメントで趙秋瑾さんは
日本より中国のこれからを懸念する意見が多いのですが、私は中国人として、日本人が中国の将来を懸念してくれてるなんてぜ~んぜん思っていません。これらの意見は、池田先生が鳴らした警鐘に対して、そうは言ったって中国も危ないんじゃないの、日本だけが心配する必要はないんじゃないの、というモラトリアムの暗示を自分にかけているだけに見えます。
と書いている。ケインズもいったように、こういう強気が投資を生み、それが強気の予想を実現してさらに投資を増やす。それに金銭に対する執着という点でも、中国人のアニマル・スピリッツは世界一だろう。中国の旧正月に香港に行くと、「明けましておめでとう」の代わりに「恭喜発財!」と書いた垂れ幕が街中にかかっている。東南アジアでは、どこの国でも華僑が金融や財界の中枢を握っている。華僑の影響を受けていないのは、日本と韓国ぐらいだろう。

日本人も生まれつきリスクがきらいというわけではなく、80年代には世界中の不動産を日本が買い占めると恐れられたこともあった。しかしその強気が崩壊してから20年、いまだに立ち直れない。このアニマル・スピリッツの不足が日本の最大の問題で、デフレの根本原因も投資機会の不足による慢性的な需要不足だ。これを雇用規制や返済猶予などの温情主義で変えることはできないし、弱気のままで日銀がいくらお札をばらまいても投資は起こらない。「デフレのときは起業も困難だから、まずデフレを止めよう」などという話は、因果関係をまったく逆にみているのである。

では投資機会を増やすには、どうすればいいのか。これはむずかしい。アニマル・スピリッツとは、ある意味で根拠なき強気だからである。ケインズもナイトも言ったように、起業の平均リターンは(失敗した企業を含めれば)マイナスだから、起業家は不合理なrisk loverだが、そういう人口の数%のイノベーターによって社会全体が利益を得る。したがって成長のためには、リスクを取りやすい環境(資本市場や金融システム)をつくることが大事だ。ところが最近の過剰コンプライアンスは、人々をますますrisk averterに追いやっている。

もう一つは、人の流動性だ。40歳を過ぎたら労働市場では価値がないので、30代のうちに会社に見切りをつけて動けるしくみを作る必要がある。今の「会社に貯金」する年功序列システムは最悪だ。地方に対する補助金もやめて、むしろ地方から都市への人口移動を促進すべきだ。またOECDもいうように、子ども手当のようなバラマキではなく、保育バウチャーなどによって女性の就業率を高める戦略的な少子化対策が必要だろう。

このように規制改革で政府がやるべきことは山ほどある。それは実は、小泉内閣でやりかけて自民党の抵抗勢力につぶされたものだ。菅氏は「小泉改革は失敗だった」と思っているようだが、私の知っている民主党の若手議員は「小泉改革が民主党の政策のモデル。自民党だからといってすべて否定するのは野党ボケだ」といっている。たぶん鳩山・菅の世代が退場しないと、本当の成長戦略は立てられないだろう。