
本書はハーバード・ビジネススクールのIT専門家であるJosh Lernerが世界各国のベンチャー振興策を調査し、その成功例と失敗例を分析したものだ。多くの政府がシリコンバレーを手本にした「国営ベンチャーキャピタル」を設置したが、その成果は惨憺たるものだ。VCの比率でいうと、アメリカを上回るのはイスラエルだけで、日本は主要国でイタリアに次いで低い。失敗の原因はいろいろあるが、著者の強調するのは次のような点だ:
- 政府が直接VCのような仕事をしてもうまく行かない:政府は大学などの環境整備や税制などの制度設計を行なう裏方に徹すべきだ
- ベンチャーは白紙からは生まれない:優秀な人材の集まっている地域で、得意分野に特化したほうがよい
- 「国策プロジェクト」は失敗する:すべて自国で開発しようと考えるのではなく、なるべく国際標準にそったオープンな技術を採用すべきだ
- 投資は内外から広くつのるべきだ:政府の出資は最小限にとどめ、なるべく民間投資でやったほうがいい。日本のように「外資」を敵視する国では、イノベーションは生まれない
基礎科学を政府が支援することは重要であり、科学的真理の探究に必ずしも実用的な成果は必要ない。しかしスパコンは研究の手段にすぎないのだから、費用対効果だけが問題だ。バカ高いハードウェアを買う予算をソフト開発(研究)に回したほうが合理的であり、調達先が国産メーカーである必要もない。このような自前主義がイノベーションの最大の敵だ、というのが本書の指摘である。