Uncommon Sense: Economic Insights, From Marriage to TerrorismBecker-Posner blogは、私のRSSリーダーに入っている数少ないブログの一つである。ベッカーはノーベル賞受賞者、ポズナーは連邦高裁判事。このような(日本的にいえば)学界の大御所が、ブログで一般読者と議論するなんて、日本では考えられない。本書は、その記事を集めたものだ。

序文では「かつてハイエクは知識を社会全体に分散したままコーディネートして利用するシステムとして価格を考えたが、インターネットは価格なしで知識をコーディネートするハイエク的システムだ」と、拙著の序文とほとんど同じことを書いている。先週の記事でポズナーは、「アメリカは日本のあとを追うか?」と問うている。
日本の政府債務はまもなくGDPの2倍を超え、国内資金だけでファイナンスできなくなるだろう。海外から資金を調達するようになると、債務不履行のリスクが出てくる。今はデフレによる低金利に救われているが、日本国債のCDSスプレッドは民主党政権になってから倍増し、0.75%になった。他方、アメリカも財政赤字が拡大したが、GDPの半分程度だ。これは管理可能であり、それを減らす最善の手段は成長率を引き上げることだ。ところがオバマ政権は、成長より所得分配に関心があるようだ。際限ない政府支出は将来のインフレの原因となる。
ベッカーの意見も、ほぼ同じだ。
日本の財政赤字の大部分は円でファイナンスされているので、債務不履行の心配はない。最悪の場合でも、政府が紙幣を印刷してインフレによって帳消しにできるからだ。アメリカの財政は日本に比べれば健全だが、財政赤字から脱却するには、成長率を高める必要がある。それには銀行やGMなどに莫大な公的資金を注入する政策をやめ、政治問題に労組が介入するのをやめさせ、保護主義を止めなければならない。アメリカの成長力は大きいので、民主党政権が成長を阻害する政策さえとらなければ、経済は回復する。
両者とも、不況と財政赤字を成長を高めることによって脱却する戦略を描いている。これが世界の常識だ。「4K」とかいう意味不明の成長戦略をのべている菅直人氏も、参考にしてはどうだろうか。さいわいアメリカの潜在成長率は3%強と推定されているので、その水準に戻すだけで財政赤字は長期的には解決できる。日本の最大の問題は潜在成長率が1%未満しかないことで、これを上げないまま「2次補正」などでバラマキを続けても、財政赤字が増えるだけだ。