フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略Google Booksをめぐる新しい和解案が提示され、英米圏の本以外は除外されることになった。これまでこのプロジェクトに文句をつけてきた日本文芸家協会などは喜んでいるだろうが、これによって次の大きな市場と目されている電子ブックで、日本が敗北することが確実になった。

今のところトップランナーはアマゾンのKindleだが、日本語の本を読むことはできない。ソニーは欧米ではSony Readerを販売し、Kindleに負けない台数を出荷しているが、今回の新和解案で決定的に不利になった。ソニーはGoogle Booksと提携してEPUBというオープン規格を採用しているので、日本が和解から除外されると、Sony Readerで日本の本を読むことは不可能になるからだ。

英米の出版業界がGoogle Booksに好意的なのは、コピーを拒否してインターネットを敵に回した結果、没落した音楽業界の教訓に学んでいるからだ。Economist誌も指摘するように、このところ音楽の海賊コピーが減った原因は、訴訟ではなくiTunesのような有料配信の普及だ。音楽業界の愚かな「北風」戦略よりも、安全で低価格の代替財を提供する「太陽」戦略のほうが賢明なのだ。

私の本もGoogle Booksで読むことができるが、これは宣伝にはなっても、これを見て本を買うのをやめる人はいないだろう。クリス・アンダーソンの『フリー』は無料でPDFファイルを公開する。しかし日本の一部の権利者が「文化を滅ぼす」などと難癖をつけ、和解から離脱するなど騒いだため、日本の読者は書籍の電子化の世界的な流れから取り残される結果になった。文化を支えてきたのは読者であり、それを忘れた「供給側の論理」は自分の首を絞める結果に終わるだろう。