勝間氏のデフレ論は、マクロ政策に人々の関心を集めたという点では、よかったのかもしれない。しかし「繰り返し主張し続けます」といっていたはずの彼女は「断る力」を発揮し、横からからんできた矢野浩一氏も中途半端に謝ったたまま逃げてしまったので、唯一の専門家の反論は飯田泰之氏のものだろう。
飯田氏の事実認識は、実は私とあまり違わない:長期的な潜在成長率と短期的なGDPギャップは別の問題であり、リフレによって潜在成長率を上げることはできない。ただしマイルドなインフレが賃金や債務の調整を容易にして成長を支援する効果はあるだろう(これは誰も否定していない)。問題は、現状でどっちが重要な問題かということだ。飯田氏はこう書く:
つまり内閣府の算出している「GDPギャップ」には、理論的には潜在GDPの低下と考えられるものがかなり含まれている。これを理論的に分類し直すと、日銀の水野審議委員のいうように、逆GDPギャップが発生している可能性がある。同様の問題はアメリカでも指摘されており、次の図のようにGDP>潜在GDPになっている可能性がある。
これは統計上の分類というテクニカルな問題なので、断定的な結論を出すことはできないが、今のように日銀が長期にわたって緩和政策を続けても効果がない状態は、日本の不況の主要な原因がGDPギャップではなく潜在GDPの低下である可能性を示している。一般論としても、新ヴィクセル派のコンセンサスとしてWoodfordは、リアルなショックの影響のほうがはるかに大きいという計量研究を示している:
追記:「長期成長戦略」として何が重要かについての私の考えは、アゴラに書いた。
飯田氏の事実認識は、実は私とあまり違わない:長期的な潜在成長率と短期的なGDPギャップは別の問題であり、リフレによって潜在成長率を上げることはできない。ただしマイルドなインフレが賃金や債務の調整を容易にして成長を支援する効果はあるだろう(これは誰も否定していない)。問題は、現状でどっちが重要な問題かということだ。飯田氏はこう書く:
現在の日本では労働力・資本の有休[原文ママ]が発生しています.要はデフレギャップです.現在の日本においてはこの「ギャップを埋める」だけでも経済状態の改善が可能なのです.つまりは今使われていない潜在力を発揮するだけでけっこう成長出来てしまうと言うわけ.潜在的な能力の向上も大切だけど,こういう実力を出し切っていない部分も活用しないと「もったいない」と思いませんか.たしかに内閣府の推定(今年4~6月)によれば-7.4%のGDPギャップがあるので、これを是正するのは金融政策の役割だ。しかしそれによってGDPギャップが100%埋まることはありえない。ギャップの原因は、マネーストック以外にも多いからだ。特に重要なのは、自動車の販売台数の減少などのリアルな需要ショックだが、これは最近の新ヴィクセル派の枠組(これは飯田氏も認めていると思われる)では潜在GDP(自然水準)の低下と考える。
つまり内閣府の算出している「GDPギャップ」には、理論的には潜在GDPの低下と考えられるものがかなり含まれている。これを理論的に分類し直すと、日銀の水野審議委員のいうように、逆GDPギャップが発生している可能性がある。同様の問題はアメリカでも指摘されており、次の図のようにGDP>潜在GDPになっている可能性がある。
これは統計上の分類というテクニカルな問題なので、断定的な結論を出すことはできないが、今のように日銀が長期にわたって緩和政策を続けても効果がない状態は、日本の不況の主要な原因がGDPギャップではなく潜在GDPの低下である可能性を示している。一般論としても、新ヴィクセル派のコンセンサスとしてWoodfordは、リアルなショックの影響のほうがはるかに大きいという計量研究を示している:
It is now widely accepted that real disturbances are an important source of economic fluctuations; the hypothesis that business fluctuations can largely be attributed to exogenous random variations in monetary policy has few if any remaining adherents. [...] In fact, Altig et al. (2005) conclude that monetary policy shocks account for only 14 percent of the variance of fluctuations in aggregate output at business-cycle frequencies...今回の日本の場合は、マネタリーな影響は軽微なので、需要ショックの大部分はリアルなものと考えられ、この場合には金融緩和は無駄である。もちろんこれは理論的な可能性だから、飯田氏のいうインフレ的な金融緩和を日銀が維持することは妥当だろう。しかし「日銀がインフレ目標を設けて国債を無限に引き受ければデフレから脱却できる」という勝間氏の主張は、まったくナンセンスである。
追記:「長期成長戦略」として何が重要かについての私の考えは、アゴラに書いた。