きのう締め切られた概算要求は、なぜか夜になっても総額が発表されず、私のニューズウィークのコラムも1日遅れてしまった。概算要求の発表が翌日にずれこむなんて前代未聞だ。

その原因は、私の想像どおり総額が「90兆円台前半」ではなかったからだ。きのうまでに発表された各省の予算を合計すると70兆800億円。それにきょう出た財務省と法務省の要求24兆9600億円を合計すると、95兆円を超える。財務省の発表が最後まで遅れたのは、予備費などの「隠し財源」を削って95兆円以内に収めるためだったと思われるが、それでも「前半」にはできなかった。

鳩山首相は、財政悪化を懸念して「マニフェストの一部断念」を示唆した。もともと両立不可能な「バラマキ福祉」と「無駄の削減」という二兎を追った結果、その矛盾が露呈したのだから、どちらかを断念するしかない。政府債務が900兆円を超え、財政の破綻確率が94.58%と推定される状況で、どちらが優先かは明らかだろう。

こういう社民的ポピュリズムが悲惨な結果をもたらした前例は過去にもある。1970年代に、各地で「革新自治体」が誕生した。その代表である美濃部都政は、都職員を4万人も増やして賃金を国家公務員より2割も高くし、老人医療の無料化や地下鉄やバスの無料パスなど、バラマキ福祉を乱発した。ところが石油危機による財政危機で東京都の財政赤字は毎年1000億円を超え、学校も都営住宅も建てられなくなり、人件費さえ払えなくなって、美濃部知事はボロボロになって退陣した。

民主党の約束したバラマキ福祉は、こうした高度成長期の革新自治体の無責任な政策の焼き直しだ。かつての日本経済にはそれぐらいの無駄を吸収する成長力があったが、ゼロ成長の今、そんな政策が不可能なことは自明である。開店休業状態になっている国家戦略室は解散し、「財政再建緊急対策本部」でもつくって国家戦略=優先順位を根本的に改めるべきだ。