本書は、昨年のディスカッションペーパー(Reinhart-Rogoff)をさらに800年にわたるデータで拡張したもので、いわばキンドルバーガーの有名な本の数量経済史版という感じだ。金融関係者には必携の包括的なデータベースだが、一般向きではない(ビジネスマンには上の論文で十分だろう)。

本書の問題提起は、なぜバブルはこうも繰り返されるのかということだ。結論はタイトルにもあらわれているように、人々が歴史に学ばず、「今回だけは相場が上がり続ける」と信じることだ。日本のバブルのときも、「ストック経済」というキャッチフレーズで「パラダイム転換」を説いた経済学者がいた。ITバブルのときは、Businessweekが「ニューエコノミー」という言葉をはやらせた。サブプライムのときは「金融工学ですべてのリスクはヘッジできる」という神話が過剰投資をもたらした。

したがって著者は、こうしたバブルから「卒業」できるかどうかには悲観的だ。金融技術などのテクノロジーは急速に発達するが、投資家の心理や政治家の知的水準はあまり進歩しないからだ。しかしバブルが崩壊したあとの処理については、歴史から学ぶことができる。

多くの危機の共通点は高すぎるレバレッジが危機の拡大をまねいたことなので、自己資本比率規制は有効だろう。バブル崩壊後に流動性を供給する金融政策は重要で、今回のFRBの対応は適切だった。財政政策も有効だが、重要なのはバラマキ公共事業ではなく、危機に陥った銀行に集中的に資本注入(あるいは国有化)して不良債権の処理を迅速に完了させることだ。

この点で、最近の金融危機の中で最悪の事後処理として本書が分析しているのは、日本である。各国の不動産バブル崩壊後の地価下落の平均期間は6年だが、日本は20年近く続いて最長だ。これは不良債権処理が徹底せず、「貸し渋り対策」と称して公的金融でゾンビ企業を延命させたため、資産デフレが終わらないものと考えられる。亀井金融担当相のいうモラトリアムを実施したら、日本はさらに物笑いの種を世界に提供することになろう。

追記:私は本書をamazon.comで買ったが、18.9ドル。送料を加えてもamzon.co.jpの2981円より安い。