今週のニューズウィークにも書いたが、JALの年金債務は、日本の他の企業にも通じる深刻な問題だ。日経新聞の今年3月の集計によれば、主要上場企業の年金・退職金の積立不足は総額約13兆円と、前年比で倍増した。この最大の原因は、株安によって年金原資が大幅に減ったためだ。積立不足額の上位10社は次のとおり:
  1. 日立製作所:6866億円
  2. NTT:5763億円
  3. 東芝:5446億円
  4. ホンダ:4566億円
  5. パナソニック:4188億円
  6. 三菱電機:4039億円
  7. 富士通:4001億円
  8. トヨタ自動車:3929億円
  9. NEC:3483億円
  10. 日本航空:3314億円
どの企業でも、積立不足の額は積立額に近いか上回っており、年金支給額のほぼ半分が不足している。こうした年金債務は現在の会計基準では計上しなくてもよいので「簿外債務」になっているが、今度のJALのように企業が破綻するリスクが出てくると現実の債務となる。国際会計基準が施行されると年金債務も負債に計上されるので、JALのように実質的に債務超過になる企業も出てくるだろう。

この問題を解決するには、支給額を減額するか確定拠出に切り替えるしかないが、それには受給者の2/3以上の同意が必要だ。年金支給の減額に反対するJALのOBは、9000人の受給者のうち3580人の署名を得たとしており、これが事実なら減額は不可能だ。NTTの場合には、2/3以上の同意を得ても厚生労働省が確定拠出への変更を認めず、裁判でもNTTが敗訴した。

企業が長期雇用や付加給付などによって公的福祉を代行するシステムは、企業が成長し続け、若い社員が増え続けるという前提でのみ可能なものだった。労働人口が逆ピラミッドになると、こうした「ネズミ講」型システムは成り立たなくなる。そして企業を卒業したOBには企業に忠誠をつくす理由がないので、徹底的に自分の利益を追求するのだ。

日本的経営を支える「和の精神」が美しい伝統だなどと称賛する向きもあるが、それは成長が永遠に続くという期待にもとづく長期的関係である。まもなく人生が終わり、これが最後のゲームだと知った老人が合理的行動をとるのは、GMを破綻に追い込んだアメリカ人と変わらない。企業がつぶれようが国家財政が破綻しようが、そのとき自分は死んでいるのだから。これがバラマキ財政の止まらない原因でもある。

こうした老人の合理的行動に対抗するには、企業の場合には破綻処理して年金債務を清算するしかない。公的年金の場合も、現在の賦課方式の年金制度が行き詰まるのは時間の問題なので、どこかで清算して積立方式に移行するしかない。この移行は非常に大きな所得移転をともなうので、政治的には困難だが、先送りすればするほど問題は大きくなる。「日本型福祉システム」という繰り返しゲームにも、終わりの時が近づいているのである。