井出草平の研究ノートという社会学者のブログに、「ロストジェネレーションは計量的に支持されない」という記事があった。ここで彼が批判しているのは、現在の雇用問題の原因を単なる不況による「就職氷河期」の問題とみる説だ。大卒の求人倍率だけをみると、90年代には1を割ることもあった大卒求人倍率が、2006年には2を超えている。これだけみると「景気さえよくなれば雇用問題は解決する。構造改革なんてナンセンス」という、今は亡きリフレ派の議論が当たっているようにみえる。ところが、非正社員の比率を年齢別に分析すると、次のようになっている:
d6581d20.jpg
これを受けて井出氏はこう結論する:
若年者の非正規雇用率が高まっていくのは、1980年くらいから始まる長期トレンドであるが、景気回復によって、この傾向が変化したことはない。変化したのは、大卒ホワイトカラーという恵まれた立場の人間たちの就職率(正規雇用率)が高まった程度である。景気回復による正規雇用の椅子は新卒の大卒ホワイトカラーに吸い取られて、就職の難しい高卒者や労働市場全体にまでは波及しない。現在の若年非正規雇用問題というのは、景気回復では決して解決しないのである。非正規雇用と正規雇用という「身分」の差というのは、景気回復でどうにかなるものではない。
これは経済学でいうと、統計に出てくる(循環的な)失業率と、構造的な自然失業率の違いだ。循環的な失業率は、景気がよくなればある程度、減らすことができるが、労働市場のゆがみによる自然失業率は景気対策で減らすことはできない。そして次の図のように、構造的な身分格差(非正規雇用比率)は、「雇用保護」の強さと正の相関がある(経済財政白書)。白書は同様の関係が、雇用保護と失業率の間にも成り立つことを示している。したがって民主党政権が派遣労働を禁止して雇用規制を強めると、格差が固定されるとともに失業率が上がる可能性が高い。

678ecd6e.jpg

ただし井出氏が「非正規と正規の待遇差をなくして、所得移転をする」ことが本来されるべき議論だとしているのは、前半は正しいが後半は誤りである。上でものべたように、所得移転によって自然失業率は変わらない。厚労省が1500倍以上に激増させた雇用調整助成金のようなバラマキ雇用対策は、社内失業を温存して労働市場を硬直化し、ゾンビ企業を延命することによって90年代と同じような不況の長期化をまねくだろう。問題は正社員だけに保障されている「終身雇用」という特権を廃止し、非正社員との身分差別をなくすことである。