総務相に就任した原口一博氏が、記者会見で周波数オークションについてコメントしているが、意味がよくわからない。この記事で引用されている彼の発言は次のとおりだが、これが理解できる人はいないだろう(記者も理解していないようだ)。
地上デジタル放送の完全デジタル化を前にした現在の放送事業者の体力を見ると,オークションを前のめりでやる環境にあるのかなという思いがある。オークションによって,言論が一つになるなど,様々な弊害が出る可能性がある。
周波数オークションというのはかなりテクニカルな問題なので、彼が理解していないのは無理もない(電波部の官僚も理解してない)。そこで誰でもわかる周波数オークションFAQを書いてみた。

まずオークションと「放送事業者の体力」には何の関係もない。新規の帯域のオークションに放送局が応札する可能性はなく、「体力」が問題になるのは通信業者である。これについてはQ4に書いたように、免許料が料金に転嫁される可能性はなく、むしろ競争促進によって通信料金は下がる。Q8でも書いたように、周波数オークションはこれから割り当てられる電波についてのもので、既存の放送局がもっている電波を競売にかけようというものではない。ところが放送局のロビイストがこの点を誤解して周波数オークションが放送局の既得権をおかすものだと思い込み、原口氏に誤った情報を吹き込んだものと思われる。

これは電波利用料とも関係なく、むしろオークションを実施すれば電波利用料は廃止されるので、放送局の負担は軽くなるだろう。かつて原口氏がいったように「電波利用料を思いっきり下げる」という公約(?)も、オークションを実施すれば実現できる。民主党では、バラマキ福祉のコストをまかなう1兆円以上の財源として、財政金融部会で周波数オークションに注目が集まっているようだ。

「オークションによって,言論が一つになる」というのはまったく意味不明だ。上に書いたように、オークションは放送局とは無関係であり、インフラの問題であって言論とは何の関係もない。これは情報通信法に対して、放送局が「表現の自由」を大義名分にして水平分離を妨害しようとしている論理を、原口氏が取り違えて話したものと思われる。

論旨は不明だが、はっきりしているのは原口氏が放送局の利益の代弁者だということである。テレビ番組の人気者になって票を得た彼が、放送局に大きな「借り」があるのは当然だろう。これ以外にもテレビ局のきらう情報通信法のレイヤー別規制を批判する一方、テレビ局の要求する日本版FCCだけは「実施する」と強調するなど、彼のバイアスは明白だが、問題を論理的に理解していないので混乱している。せめて上のFAQと地デジFAQぐらいは読んで、基礎知識を身につけていただきたい。