TBで教えてもらったが、民主党の「減額補正」の動きをFTが「景気刺激の国際協調に水を差すものだ」と批判している。鳩山内閣の財務相になる予定の藤井裕久氏も、「これはデリケートな問題だ」と認めている。

麻生政権のバラマキ補正は、乗数効果を1としてもGDPを3%押し上げる効果をもつ。未執行分は8.3兆円もあるそうだが、これを全部やめると、GDPは1.6%下がる。これを子ども手当などに回すとしても、来年度以降の話だ。つまり藤井氏の行なっているムダ撲滅は、負の景気対策なのである。これは民主党のバラマキ福祉が「可処分所得」を増やす成長戦略だという説明をみずから否定している。子だくさんの家庭で増える可処分所得の財源をムダの削減でまかなうと、公共事業がなくなって職を失う人々の所得が減るので、マクロ経済的にはプラスマイナスゼロなのだ。

では地底人のように、「どんなムダでもいいから政府が金を使え」という主張は正しいだろうか。これまでにも紹介したように、このような素朴ケインス主義を主張する経済学者は、今はほとんどいない。1930年代にケインズのとなえたバラマキ財政政策も誤りで、本来は通貨を十分供給して銀行の連鎖倒産を防ぐべきだった。今回の日本の不況についていえば、GDPの落ち込みは輸出関連産業に集中しているので、土木事業に税金をばらまいても意味がない。

つまり問題は、集計的なGDPを増やすことではなく、「市場の失敗」の起きた部門を政府が支援して自律的な回復をうながすことなのだ。この観点からいうと、バラマキ補正そのものがナンセンスであり、それを巻き戻す減額補正は正しい。特に今回の日本の不況の原因はマネタリーな要因によるものではなく、外需の減少というリアルな需要ショックによるものだから、負の需給ギャップが生じているとすれば、在庫調整が終わらないかぎり、金融・財政政策の効果は限定的だ。

この問題は「高校生の経済学」では理解できず、素朴なIS-LMで考えると、逆に「デフレなんだからヘリコプターから金をばらまけ」とか「ゼロ金利でもマネタリーベースを無限に増やせばインフレが起こる」とかいう金融バラマキ政策が出てくる。民主党の「反ケインズ政策」も、臨時国会で「景気最優先」を唱える自民党の攻撃を受けるおそれがあるが、民主党のマニフェストにはマクロ経済政策という言葉さえない。素朴に「ムダ撲滅」ばかり言っていると、国会で立ち往生することになりかねない。

最近の(大学院レベルの)マクロ経済学で教えるのは、長期的に維持可能な自然水準を無視した短期的バラマキ政策は(財政・金融ともに)有害だということである。残念ながらこれをやさしく説明したマクロ経済学の教科書はほとんどないが、Mankiwの教科書の次のバージョンのゲラが公開されている。誰か政調会のスタッフが、この部分だけでも(ペラ3枚ぐらいに)翻訳し、マクロ経済学者に「大臣レク」をしてもらって理論武装してはどうだろうか。