ゲーム理論にメカニズムデザインという分野がある。これ自体は非常に数学的に高度なので、一般の読者にはおすすめできないが、基本的な考え方は福祉経済学を拡張した規範的ゲーム理論だ。普通のゲーム理論は、あるゲームのルール(利得行列)のもとで人々が合理的に行動するとどうなるかという結果を予想するが、メカニズムデザインでは逆に、望ましい結果を実現するゲームのルールはどのようなものかを考える。重要なのは、第三者(政府)が介入しないで、当事者の合理的行動だけによって目的が実現するようにルールを設計することだ。
最近、2週間ほどツイッターを使ってみて、意外にノイズが少ないことに気づいた。直感的には、断片的な「つぶやき」を全世界に発信できるとノイズだらけになりそうなので、私もアカウントをとったまま休眠状態だった。しかし先週のネットラジオで聴取者の反応を募集するために使ったら、意外にちゃんとした意見が集まった。これについて先週のASCII.jpで書いたら、いろんな反応がきた。
Dankogaiは「たとえ@celeb 三国一のバカと @nobody がtweetしたとしても、 @celeb のTLにその発言は現れない」とコメントしているが、そんなことは問題ではない。たしかに@celebあてのメッセージはTL(タイムライン)には出ないが、@celebを参照すれば見える。celebで検索する機能もあるが、それで見ても印象はあまり変わらない。TLではS/Nが50倍ぐらいだとすれば、@では30倍、検索でも20倍ぐらいだろう。2ちゃんねるは1/100、はてなブックマークは1/10ぐらいだから、ツイッターのS/N比は格段に高い。
いろいろな条件で検索すれば、ノイズはたくさん出てくるだろうが、重要なのはツイッターではほとんどの人がわざわざ検索しないということだ。私の場合、フォローしている相手は8人しかいないが、@ikedanobの含まれているメッセージだけで1日に100件ぐらい来るので、クライアントの画面はそれで埋まってしまい、それ以上わざわざ検索して読む気にならない。100人以上フォローしている人は、たぶんTLもそれ以上のペースで埋まるだろう。
つまり、これまで検索エンジンでやっていた「自分に必要な情報」と「自分についての情報」だけが自動的に集まるしくみに(結果として)なっているのだ。メッセージ自体は短いが、ほとんどにはリンクが張られているので、ウェブ上の情報へのリンク集になっている。悪意のメッセージも1日に数回は来るが、こういう場合にはブロックという便利な機能がある。下らないメッセージを出した相手をブロックすると、相手からも自分が見えなくなるのだ。
もし私が誰かにスパムを出してブロックされると、向こうから私のメッセージが見えなくなるだけではなく、私が彼のメッセージを見ることもできなくなる(検索しても出てこない)。したがって価値のある情報を出している人にスパムを出してブロックされると、自分が情報を得られなくなるのだ。ブロックはアカウント単位で、ブロックされたほうからは解除できない。したがって一度バカなことをいうと自分の存在が抹殺されてしまうので、自分の評判を守るインセンティブが生じる。この評判メカニズムは、アカウントが実名か匿名かにはあまり依存しない(この点で私のASCII.jpの記事はミスリーディングだった)。
こういうルールはFacebookに似ている(Facebookにツイッターを表示することもできる)が、Facebookは承認した友人どうしなので、ノイズはゼロだが新しい出会いもない。逆にEメールは新しいメッセージが来るが、膨大なスパムが含まれ、それをフィルタリングするには高度な技術が必要だ。ツイッターは毎日、新しい人からのメッセージが届くがノイズが少ない。システム管理者の介入なしにend-to-endでこうした自生的秩序ができるのは、意図した設計ではなかったと思うが、結果的に見事なメカニズムデザインになっている。
サマーズもいうように、世の中にはバカがたくさんいるが、彼らがバカなことをやって損するのは自己責任だ。問題は彼らが他人に悪影響を及ぼすことだから、そういうバカよけ(foolproof)のメカニズムがあればいいのだ。経済政策でも、政府が裁量的に介入するのではなく市場にまかせることが重要だが、バカが多すぎると市場は暴走する。それを防ぐ「行動経済学的メカニズムデザイン」を考える上で、ツイッターはおもしろい練習問題になるかもしれない。
最近、2週間ほどツイッターを使ってみて、意外にノイズが少ないことに気づいた。直感的には、断片的な「つぶやき」を全世界に発信できるとノイズだらけになりそうなので、私もアカウントをとったまま休眠状態だった。しかし先週のネットラジオで聴取者の反応を募集するために使ったら、意外にちゃんとした意見が集まった。これについて先週のASCII.jpで書いたら、いろんな反応がきた。
Dankogaiは「たとえ@celeb 三国一のバカと @nobody がtweetしたとしても、 @celeb のTLにその発言は現れない」とコメントしているが、そんなことは問題ではない。たしかに@celebあてのメッセージはTL(タイムライン)には出ないが、@celebを参照すれば見える。celebで検索する機能もあるが、それで見ても印象はあまり変わらない。TLではS/Nが50倍ぐらいだとすれば、@では30倍、検索でも20倍ぐらいだろう。2ちゃんねるは1/100、はてなブックマークは1/10ぐらいだから、ツイッターのS/N比は格段に高い。
いろいろな条件で検索すれば、ノイズはたくさん出てくるだろうが、重要なのはツイッターではほとんどの人がわざわざ検索しないということだ。私の場合、フォローしている相手は8人しかいないが、@ikedanobの含まれているメッセージだけで1日に100件ぐらい来るので、クライアントの画面はそれで埋まってしまい、それ以上わざわざ検索して読む気にならない。100人以上フォローしている人は、たぶんTLもそれ以上のペースで埋まるだろう。
つまり、これまで検索エンジンでやっていた「自分に必要な情報」と「自分についての情報」だけが自動的に集まるしくみに(結果として)なっているのだ。メッセージ自体は短いが、ほとんどにはリンクが張られているので、ウェブ上の情報へのリンク集になっている。悪意のメッセージも1日に数回は来るが、こういう場合にはブロックという便利な機能がある。下らないメッセージを出した相手をブロックすると、相手からも自分が見えなくなるのだ。
もし私が誰かにスパムを出してブロックされると、向こうから私のメッセージが見えなくなるだけではなく、私が彼のメッセージを見ることもできなくなる(検索しても出てこない)。したがって価値のある情報を出している人にスパムを出してブロックされると、自分が情報を得られなくなるのだ。ブロックはアカウント単位で、ブロックされたほうからは解除できない。したがって一度バカなことをいうと自分の存在が抹殺されてしまうので、自分の評判を守るインセンティブが生じる。この評判メカニズムは、アカウントが実名か匿名かにはあまり依存しない(この点で私のASCII.jpの記事はミスリーディングだった)。
こういうルールはFacebookに似ている(Facebookにツイッターを表示することもできる)が、Facebookは承認した友人どうしなので、ノイズはゼロだが新しい出会いもない。逆にEメールは新しいメッセージが来るが、膨大なスパムが含まれ、それをフィルタリングするには高度な技術が必要だ。ツイッターは毎日、新しい人からのメッセージが届くがノイズが少ない。システム管理者の介入なしにend-to-endでこうした自生的秩序ができるのは、意図した設計ではなかったと思うが、結果的に見事なメカニズムデザインになっている。
サマーズもいうように、世の中にはバカがたくさんいるが、彼らがバカなことをやって損するのは自己責任だ。問題は彼らが他人に悪影響を及ぼすことだから、そういうバカよけ(foolproof)のメカニズムがあればいいのだ。経済政策でも、政府が裁量的に介入するのではなく市場にまかせることが重要だが、バカが多すぎると市場は暴走する。それを防ぐ「行動経済学的メカニズムデザイン」を考える上で、ツイッターはおもしろい練習問題になるかもしれない。