民主党政権の最大の課題は、官僚機構との闘いである。さっそく消費者庁や概算要求をめぐって鞘当てが始まっているが、こういうとき厄介なのは、官僚機構の匿名性だ。個人が反撃されないように責任の所在を曖昧にし、面従腹背で「よそもの」である政治家を情報的に孤立させてコントロールするのが彼らの常套手段である。この点、本書の著者である若手官僚は、実名で改革を提言している。霞ヶ関も、少しは変わりつつあるようだ。

しかしその改革の内容は、残念ながらよくも悪くも官僚的だ。最初に日本の「国力低下」を指摘して、それを建て直す「国家戦略」の必要を説き、その戦略を実現する官邸中心の「組織再編」を提言する構成は、審議会に提出される「事務方」の資料とよく似ている。15人の著者の共著であるため、一通り問題点は整理されているがメリハリがなく、本としてはつまらない(所属官庁への遠慮もあるのだろうが)。

最大の問題は、著者が「官僚機構は必要なのか」という根本問題を問わないで「霞ヶ関維新」を論じていることだ。必要なのは霞ヶ関の改革ではなく統治機構の改革であり、民主党のいうように明治期に日本が採用した官僚中心の国のかたちを見直すことが第一だ。それを抜きにして官僚機構だけを手直ししても意味がない。人事制度などについて部分的にはおもしろい指摘もあるが、20~30代の官僚が書いたにしては発想に新鮮さがない。

Silbermanなども指摘するように、日本のような行政中心の統治システムは、後発国の「追いつき型近代化」のために資源を総動員するには適しているが、経済が成熟して資源を最適配分することが重要になると、うまく機能しなくなる。効率を上げるにはシステムを分権化する必要があるが、官僚機構が権限を離さないからだ。こういうときは、まず行政に集中した権力を立法や司法に分離する必要がある。民主党のIT政策の目玉である「日本版FCC」も、むしろ総務省の裁量行政を司法に分離することを考えたほうがいい。

この点で、経営工学の博士号をもつ鳩山由紀夫氏が首相になるのはいい機会だ。彼の専門はOR(ネットワーク理論・ゲーム理論)だというから、最適配分の専門家である。大学でゲーム理論を講義できる首相が誕生するのは画期的なことで、システムを合理的に設計する技法については、オバマ大統領よりはるかにくわしいはずだ。数学の得意な鳩山氏には(最近発展した)メカニズムデザインを学んでいただき、政府が直接介入しないで人々のインセンティブを生かして効率的な結果を実現する制度設計を考えてほしいものだ。