鳩山由紀夫氏によれば、「市場原理主義」が文化や伝統を破壊して、信頼にもとづく社会の秩序を危うくしているそうだが、それは本当だろうか。Francois et al.によれば、規制改革によって労働市場が競争的になると、労働者の信頼は高まるという。


秩序を維持するメカニズムは2種類ある。一つは伝統的な「小さな社会」を支える長期的関係=安心で、これはグローバルな市場で維持することはむずかしい。もう一つは「大きな社会」で機能する契約ベースの信頼=友愛(fraternity)である。それは無条件に人類を愛する「博愛」ではなく、特定の結社や契約にもとづく信頼関係だから、友愛が機能するためには安心社会とは異なるルールの体系が必要だ。友愛社会は不自然なルールにもとづくものだから、安心社会ほど心地よくないが、文化や伝統の違いを超えて広がりをもつ。

安心社会に慣れた人々にとっては、こうしたルールの変更は「国家の品格」を破壊するものと映るかもしれない。日本のように大きな社会で安心メカニズムが機能してきたのは稀有な例だが、ここ20年の閉塞状況は安心社会が行き詰まったことを示唆している。いったん安心の失われた社会で、長期的関係を再構築することは非常にむずかしい。本気でやろうと思ったら、鳩山氏のいうように「グローバリズム」を拒否して農業を保護し、地方に補助金をばらまいて衰退する農村を守るしかない。そういう「小国主義」もそれなりに一貫した政策だが、それは友愛とはまったく逆の思想である。