TBSで『官僚たちの夏』という連続ドラマが始まった。多少は皮肉をまじえているのかと思ったら、原作以上に産業政策バンザイで驚いた。いまテレビ番組をつくる世代には、あの時代の失敗の体験が受け継がれていないとすると、困ったものだ。
城山三郎の原作(1975年)は、佐橋滋という実在の通産事務次官をモデルにしたもので、私の世代には、この小説に感動して大蔵省を蹴って通産省に入った学生もいた。小説はかなり史実にもとづいているが、このドラマは冒頭に出てくる「国民車構想」からして完全なフィクションだ。通産省がそんな事業を推進した事実も、そういう自動車が試作された事実もない。むしろ自動車は、失敗だらけの産業政策の中で役所が干渉しなかったから成功した数少ないケースだ、というのがポーターなどの評価だ。
原作の中心になっているのは、1962年に佐橋が立案した特振法(特定産業振興臨時措置法)で、企業の合併などによって外資に対抗し、国際競争力を高めようとするものだったが、実際には時代錯誤の統制経済だとして民間の反発をまねいて挫折した。佐橋自身も退官後は余暇開発センター理事長となって、産業振興とは逆の仕事で余生を送った。
しかし特振法の精神は通産省の行政指導として残り、外資を排除して国内企業の「体質強化」をはかる保護行政が続いた。原作で印象的なのは、「自由化したら国力の圧倒的に大きいアメリカにつぶされる」という被害者意識と、「自分たちが指導しないと民間には力がない」という国士意識が強いことで、このDNAは経産省にも受け継がれている。21世紀になっても、「日の丸検索エンジン」とかエルピーダ救済とか、産業政策の亡霊はまだ霞ヶ関を徘徊しているようだ。