原著は、起業のハウツー本のベストセラー。著者ガイ・カワサキは日系2世で、元アップルの「エバンジェリスト」だ。10年ぐらい前に国際会議で会ったことがあるが、「パワーポイントの枚数と話の内容は反比例する」という「ガイ・カワサキの法則」を提唱し、スライドなしで話していた。本書にもそういう実用的なアドバイスがたくさん出ている。

ただ主要部分は、すでに有望な技術やビジネスモデルをもっている起業家がベンチャー・キャピタルからいかにして出資を引き出して会社を設立するかというノウハウなので、これから会社を起こそうと夢見ているサラリーマンには役に立たない。またシリコンバレーに固有のビジネス習慣にかなりページが割かれているので、そのまま日本では応用できない。むしろ本書から伝わってくるのは、ベンチャーが金もうけの手段というより、大企業に反抗して自分の夢を実現するカルチャーだということだ。

原題が"The Art of the Start"となっているように、起業は一種のアートなので、「こうすれば成功する」という法則はない。しかし「これはやってはいけない」というルールは、かなり万国共通であることがわかる。本書が強調するのは、優秀なコンサルタントをたくさん雇って、ありとあらゆる問題点を長期にわたって慎重に検討し、60枚のパワーポイントで2時間も説明するようなビジネスプランは、必ず失敗するということだ。本当のイノベーションは全員一致で決まるものではなく、個人の直感と試行錯誤の中から生まれるのだ。

ところが霞ヶ関の人々と話すと、いつもこういう典型的な失敗パターンが出てくる。最近はバラマキ補正予算のおかげで経産省や政投銀には陳情が門前市をなしているそうだが、そういう補助金がなぜ失敗するかは本書を読めばよくわかる。