本書はフォン=ノイマンが、「人間の行動を合理的に説明する」という目標を徹底的に追求したもので、1944年に出版された当時の影響は大きかった。ゲーム理論はすべての人間行動をメカニカルに説明し、その結果を予測する理論と考えられたからだ。ニュートン力学が天体の運行を数百年後まで予測したように、ゲーム理論で人間行動を完全に予測できると考えられ、それを応用して核戦略を立案する研究も行なわれた。

しかし、こうした研究は挫折した。実際の人間は、ノイマンが想定したような厳密な合理性にもとづいて行動しないからだ。今この本を完全に理解できる人は、ほとんどいないだろう。ゲーム理論の専門家でも、ゼロ和n人ゲームの超難解な(しかも役に立たない)数学理論のところで挫折すると思う。本書の大部分を占めるゼロ和ゲーム理論に実用的な価値はないので、教科書としては役に立たない。

ただゲーム理論の基本思想は、本書に示されている。それはチェスのように、自分がある行動をとったら相手がどう行動するかを予想して戦略を決める、戦略的行動の理論である。普通の人はノイマンのような天才ではないので、チェスを始める前に相手を詰めるところまで読み切ってしまうような本書の厳密な推論は役に立たないが、「三手の読み」ぐらいは役に立つ。たとえば整理解雇を事実上禁止すると、企業は中高年の雇用を守るために新卒採用を減らすので、非正社員が増える。こういう意図せざる結果を計算して行動することが大事だ、というのがノイマンがこれをゲーム理論と名づけた理由である。

日本人は、こうした戦略的思考が苦手だ。山口二郎氏や某弁護士のように、他人は自分の意図どおり行動すると信じて主観的な正義を振り回す人が多い。そういう人々には本書は無理なので、ギボンズの教科書をおすすめする(某弁護士にはこれも無理だろうけど)。

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