本屋に本書が平積みになっていたので、文庫の新刊かと思ったら、そうではなかった。単行本は2003年に出ており、文庫化は3年前なのだが、昨今のユニクロの躍進で、ビジネスマンにあらためて注目されているらしい。ユニクロは、日本企業がグローバル化の中で生き残れる道を示唆していると思う。

「内需拡大が必要だ」というのは、日本企業が「引きこもり」すべきだということではない。むしろ日本の貿易依存度は先進国の中では低く、輸入が特に少ない。グローバルな比較優位を十分生かせていないのだ。外需の落ち込んだ分を内需で補うには価格を下げる必要があり、そのためには国際分業によって供給の効率を上げることが重要だ。そのモデルがユニクロである。

しかし本書にMBAのような「戦略」を期待すると拍子抜けするだろう。著者は経営学の理論などはほとんど知らず、試行錯誤の連続で事業を急拡大してきた。それが結果的に、日本の産業構造の盲点をついたのだ。盲点は3つぐらいある:
  1. 日本型流通機構からの脱却:繊維業界は体質が古く、問屋が流通を支配し、小売りは委託販売で返品自由な代わり利潤の分配は問屋が決めていた。これでは小売りは永遠に問屋の下請けにしかなれない。ユニクロは問屋との取引をやめ、契約工場に生産委託して直販する方式をとった。

  2. グローバルな垂直統合:円高の中で中国への生産委託が増えた。中国での生産も、最初は出張ベースで現地の工場に委託していたが、2001年に上海に合弁会社をつくって生産と流通を統合した。

  3. オウンリスク経営:タイトルにも現れているように、実はファーストリテイリングの事業で成功したのはユニクロだけで、他の「スポクロ」とか「スキップ」などの事業はすべて失敗している。こうした決定も銀行や取引先などとは相談せず、すべて著者が決めて失敗したらさっさと撤退する。
その業種が、日本の製造業がとっくに見捨てた繊維産業だったのも盲点を突いている。繊維製品をつくる国内の工場はほとんどなくなったが、低価格のカジュアルウェアの需要は旺盛なので、海外生産でコストダウンしたわけだ。これは流通という内需型の企業が、デザインや品質管理における日本の優位と賃金における中国の優位をうまく結びつけた例だ。全体として一貫しているのは、他の企業に依存せず、residual claimantとして自分のリスクで行動することだ。

輸出立国モデルが終わった今、日本経済が長期停滞を脱却する道はハイテク産業だけではない。産業規模として重要なのは、労働人口の7割を占めるサービス業である。特に規模が大きいのは流通だが、その生産性は規制によって低下している。ユニクロのように、サービス業がグローバル化して効率を高めることが重要だ。