小林慶一郎氏がVOXに、日本の90年代について書いている。海外のメディアに日本の経済学者が書くのは非常に珍しいが、もっと発言すべきだと思う。
The greatest lesson from Japan's experience is not that bank recapitalization should take place quickly, but that market confidence can be restored only when progress is made on the painstaking process of disposing of nonperforming assets. In retrospect, the recapitalization of banks in 1998 and 1999 delivered only a temporary respite and did not guide the Japanese economy onto a true path of recovery.
私も同感だ。ウルフやクルーグマンが誤って信じている「財政政策で支えるべきだ」という地底人の話は、実証研究でも否定されている。金融緩和の効果も限定的だった。問題のコアである金融システムが健全化されないかぎり、市場の信頼は戻らない。それを「民間の自主性」にまかせていると、不良資産を清算したらつぶれる銀行は問題を先送りする。

2003年以降、日本経済が回復したのは、ゼロ金利によって銀行の業務純益が史上最高になって不良債権を償却する原資になるとともに、竹中プランによって償却を強制されたためだ。今回のガイトナー案でも、重要なのは資産オークションではなく、ストレス・テスト(資産査定)だろう。

最近、小林氏の『日本経済の罠』が文庫で復刊され、竹中平蔵氏が解説を書いているが、それによると竹中氏の不良債権処理策の理論的根拠は、小林氏の(というかBlanchard-Kremerの)disorganizationだったらしい。しかし日本経済の問題を大規模なホールドアップ問題ととらえるのは、反書評にも書いたように誤りである。逆に、過剰債務を温存したsoft budget constraintこそ問題だったのだ。

誤った理論から正しい政策が出てきたのは、たまたま日銀の進めていた金融緩和によって銀行に超過利潤が蓄積されていたからだ。株価が底を打ったのは、竹中氏が(債務超過の疑いの強い)りそなを救済してからだった。つまり預金者の所得を銀行に移転し、それを原資にして不良債権を清算し、銀行を延命したのである。これは金融システム対策としては正解だったが、結果的にはバブルの「主犯」だった大蔵省と銀行を守って日本経済の長期停滞の原因となった。

ただ今回のアメリカの危機はdisorganizationに近いので、Blanchard-Kremerの理論どおり資本注入によってホールドアップを減らすことが有効な対策になろう。日本とは逆に、危機の原因となった投資銀行はほぼ壊滅したので、銀行を延命する弊害は日本ほど大きくない。だからクルーグマンやEconomist誌のいうように、国有化によって不良資産の清算を強制するのが正解だと思う。マーケットが「底を打った」と思わないかぎり経済は回復しない、というのがすべての金融危機に共通の教訓だ。