今回の金融危機を理解する上で重要なのは、有効需要とかマネーストックなどのマクロ経済学の概念よりも、情報の非対称性にともなうエージェンシー問題だろう。特に金融のような複雑な取引では、プリンシパル(投資家・預金者)とエージェント(金融仲介機関)の情報の非対称性が大きいので、モラルハザード逆淘汰が起こりやすい。

こういう言葉はメディアにもよく登場するようになったが、金子勝氏のように意味を理解しないでいい加減に使うことが多い。これを正確に理解するためには、情報の経済学や契約理論を理解する必要があるが、なかなかいい本がない。日本語で書かれた教科書としては、伊藤秀史『契約の経済理論』がベストだが、かなり高度で、ビジネスマンにはおすすめできない。

本書は昨年、訳本の第1巻が出たが、1年以上も遅れてやっと第2巻が出た。第1巻はオーソドックスな均衡理論で、この第2巻が情報の経済学やゲーム理論を扱っている。ビジネススクールの教科書として書かれているので、初等的とはいえないが記述は平易だ。著者はこの分野の第一人者なので、オリジナルな話もまじえている。この第2巻だけで独立に読め、日本語で読める情報の経済学の入門書としてはベストだと思う。