ガイトナー財務長官が不良資産買い取り計画を発表した。何しろ1兆ドルという史上最大のオークションだけに、賛否両論が渦巻いている。Mankiwは「私が半年前に提案したスキームと同じなのに引用されていない」とつまらないことに怒っている。DeLongは弁護しているが、Krugmanは否定的だ。
The Obama administration is now completely wedded to the idea that there’s nothing fundamentally wrong with the financial system ― that what we’re facing is the equivalent of a run on an essentially sound bank. As Tim Duy put it, there are no bad assets, only misunderstood assets. And if we get investors to understand that toxic waste is really, truly worth much more than anyone is willing to pay for it, all our problems will be solved.
これはいいポイントを突いている。もし正しい答を政府が知っているなら、それを民間に教えればいいのだが、たぶん本当の答は誰も知らない。オークションはtruth telling mechanismだが、真理が存在しない場合には大混乱になるおそれがある。

日本では、1993年に共同債権買取機構が設立されたが、世論の反対で公的資金を入れなかったため、銀行が自己資金で自分の不良債権を買い取るという、わけのわからない機関になってしまった。今回の案が日本と違うのは、民間企業がオークションで不良資産を買い取り、その債務保証を政府がやる点だが、これはかなり危険なしくみだ。Krugmanも指摘するように、投資ファンドが政府の金でギャンブルをやるチャンスになりかねない。

さらに問題なのは、不良資産が出てこないことだ。オークションでfire sale priceで売却したら債務超過になることを恐れて、銀行は売らない。結局、政府の「ストレス・テスト」(資産査定)で不良資産の売却を強制するしかないだろう、とEconomist誌はみている。日本でも、最終処理が進んだのは竹中プランの荒療治のおかげだった。

こうしてみると90年代の日本の金融当局が特にバカだったわけではなく、含み損を表に出すと銀行がつぶれる場合に不良資産の処理が進まないのは、金融危機に共通のジレンマだ。しかも、そういう場合の処理ルールが決まっていないので、泥縄式にいろんな案が出ては引っ込む。どこの国も危機管理体制がお粗末なのは大差ないな――という意味では、今回の騒動は日本の名誉回復にかなり役立ったのではないか。

追記:NYタイムズでは経済学者の論争が始まった。アメリカでは、ウェブが民主主義の一環になりつつあるようだ。