
経営者がみずから将来のキャッシュフローを過小評価して株価を下げるのは株主に対する背信行為だが、これには裏がある。あまりもうかっているというと、また分割論や接続料引き下げなどの規制強化が出てくるからだ。つまりNTTの経営者は、株主価値の最大化ではなく企業規模の最大化を目的として行動しているのだ。これはempire buildingとよばれるエイジェンシー問題の典型である。
さらにNTTの再々編を議論する「2010年問題」が控えている。あまり利益が大きいと「完全分割論」が再燃しかねないので、もうかっていないと強調するのだ。現場の社員は、規制のうるさいインフラを水平分離してサービスは自由にやりたいと思っているのだが、幹部は現状維持がベストだと思っているので、再々編はまったく口にしない。NGNも、NTTグループの再統合という政治的な目的で出てきたものだ。
日本の輸出産業が挫折した今、内需拡大の最大の柱は通信サービスである。しかし本書も指摘するように、NTTの組織防衛の論理が通信業界を支配し、携帯でもIPでもNTTを頂点とするITゼネコン型の産業構造が続いてきた。それが通信技術のガラパゴス化をもたらし、世界市場で日本の通信機メーカーは壊滅状態だ。
だからNTTの再々編は不可避だが、10年前のような固定系の会社をどうするかは大した問題ではない。連結の営業利益の8割をたたき出しているのはドコモであり、これを除いた電話会社は本当に斜陽産業である。ドコモの問題は規制ではなく、資本の論理で解決すべきだ。政府保有株式をすべて売却してNTTを完全民営化し、ドコモがMBOで独立するのが理想だと思う。そしてUHF帯の300MHzが開放されれば、FTTH並みの高速無線通信によってプラットフォーム競争が可能になり、日本経済も活性化するだろう。