30分で書いた先日の記事が思わぬ議論を呼んでいるので、補足しておく。書き方が混乱をまねいたのは申し訳ないが、これは「外国貿易乗数は大国のほうが大きい」という常識を書いただけだ。ちょうど先週出た日銀の金融経済月報に、この原因についての分析があるので、引用しておこう:
わが国の生産の落ち込みは、世界的な景気調整の震源である米国と比べても、むしろ大幅なものとなっている。これには、以下に示すように、日米製造業の構造の違いが大きく影響していると考えられる。私の記事で書いたのは、このうち「第3の効果」だけで、本質的な問題は日本経済の2000年代の成長率のほぼ半分が輸出の増加によるものだったことである。先日の『Voice』の記事を読むと、こうした問題を「需要不足は景気対策で一発で片づく」と考える民間信仰はまだ根強く残っているようだが、今回の外需の不足をもたらしたのは製造業の産業構造であり、マクロ政策で変えることはできない。
第1に、鉱工業を構成する産業のウエイトの違いである。鉱工業の生産の内訳をみると、わが国は、落ち込みの大きい輸送機械(自動車等)、電気機械類(電子部品・デバイス、電気機械、情報通信機械)、一般機械(設備機械等)の3業種で鉱工業全体の約5割を占めているのに対し、米国では、それに対応する業種の比率は2割程度。
第2に、輸出の影響の違いである。輸送機械など3業種では、ウエイトだけでなく、生産の落ち込み幅自体もわが国の方が大きく、これには輸出の大幅減少が影響している。わが国では、これら3業種を中心に製造業の輸出比率がもともと米国より高く、しかも近年は、新興国・資源国の需要拡大や為替円安を背景に、輸出比率はさらに高まっていた。
第3に、需要ショックの波及効果の違いである。輸出が増加すると、その生産に必要な財・サービスの国内取引を通じて次々と他の製造業の生産に波及し、結果として当初の需要増加の何倍かの国内生産が誘発される。わが国では部品や素材の国内調達比率が高いことから、こうした最終需要の製造業生産に対する誘発力は高い。