池尾・池田本は、アマゾンの先行発売だけで重版になった。都心の本屋には並び始めたが、それと並んでいるのが本書だ。テーマもほぼ重なるので読んでみたが、競合するというより補完的な本だと思う。われわれの本では、危機のメカニズムを理論的に分析することに重点を置いたが、本書はマクロ統計を駆使してグローバルな視野から論じている。

その結論は、われわれとほぼ同じだ。危機の背景には、新興国の過剰貯蓄をアメリカが吸収したことによるグローバル・インバランスがあり、高いリターンを実現したようにみえる投資銀行の金融商品の中身は多分に詐欺的なものだった。それが放置されたのは、オフショアの「影の銀行システム」が銀行規制の抜け穴になっていたためだ。したがって今回の危機の主要な原因は、時代遅れの規制による「政府の失敗」であり、これを「新自由主義の行き過ぎという観点で捉えることは、誤った判断となる」。

日本の投資不足が慢性的に続き、それを外需で埋めてきた経済構造が、欧米より大きなダメージを受ける原因となった。したがって日本経済を内需主導に転換する改革が必要で、地方公務員の給与が異常に高く有能な人材が民間に集まらない「社会主義的」な経済構造が成長を制約している――というのが本書の結論だ(これもわれわれとほぼ同じ)。

原田泰氏は「リフレ派」に近いが、このように市場を重視する考え方は「構造改革派」と同じであり、もはやそういう対立には意味がない。「富をつくった人に富が還元されるしくみがなければ社会は豊かにならない」というのは、すべての経済学者のコンセンサスである。