昨年10~12月期の成長率は、先日の記事で書いた上限を超える年率マイナス12.7%だったが、今年1~3月期はマイナス20%に迫ると予想されている。これを受けて、また3次補正の話が出ているが、昨年の1次補正や利下げなどの効果がなかったことは明白だ。景気刺激策がきかないのは、現在の経済危機がグローバルな経常収支バランスの大規模な変化によって生じているためだから、2回やってだめなものは3回やっても無駄だ。

こうした状況を受けて、ようやく「外需依存型」の経済構造を転換して「内需拡大」すべきだという声が出てきた。麻生内閣も、3月に「成長戦略」を出すそうだ。これについて、けさの日経新聞で、平田育夫論説委員長は、次のように書く:
わが日本にも成長戦略ははあるが、どれも網羅的で、経済産業省の新経済成長戦略などはA5判で三百五十ページもある。網羅的といえば聞こえが良いが「鳥獣害対策」まであると戦略の重点が分からない。また政治的に難しい問題には踏み込まないので芯を欠いてしまう。[・・・]この非常時にこそ、政治家が日本の将来像を描いて芯のある成長戦略を定め、それに沿って景気対策を実施すべきではないか。経済社会の将来に関しては環境、医療・介護、教育、農業などの分野や、そこでの生産性向上、雇用確保が重要だ。
経産省の成長戦略が総花的だというのはその通りだが、平田氏の推奨する分野が成長産業かどうかはわからない(農業がそうでないことは明白だ)。成長産業を決めるのは経産省でも日経新聞でもなく、市場である。政府がやるべきなのは、特定の産業に「重点投資」する産業政策ではなく、私が先週の週刊東洋経済に書いたように、成長産業に人的・物的資源が移動できるような制度設計である。

具体的には、資本市場の改革(特に対外開放)で企業買収・売却による事業再構築を容易にすることと、労働市場を改革して衰退部門から成長部門への労働移動を促進することだ。いま政府のやっている外資による対内直接投資の規制や派遣労働の規制強化などは、逆に生産要素の移動をさまたげて、潜在成長率を低下させる。医療への参入を促進するために必要なのは政府の指導ではなく、医師会の圧力で医師の供給を絞ってきた医療政策の転換であり、介護への新規参入を阻害しているのは過剰な規制だ。

かつて通産省の看板だった産業政策が有害無益になったのは周知の事実だが、何もしないと予算が減るので、このごろは成長戦略という名前で時代錯誤の「ビジョン行政」が復活している。しかし「情報大航海プロジェクト」の失敗(関係者は「大後悔」と呼んでいるそうだ)をみてもわかるように、役所が産業を育成する時代ではない。経産省はターゲティング政策からは手を引き、財界や労組の抵抗を排して資本・労働市場を改革すべきだ。