ケインズの乗数理論は役に立たないが、彼が強調した不確実性や「アニマル・スピリッツ」などの心理の問題は、今回の経済危機であらためて注目されている。本書はAkerlofとShillerという巨匠が、そうした不況の心理的な側面を、行動経済学の成果を使ってやさしく解説したもので、読み物としても楽しめる。
ケインズの理論はIS-LM図式として教科書になり、それをさらに洗練して合理的期待理論ができた。現在のマクロ経済学の主流であるDSGEもその延長上にあるが、現在の危機はこの種の均衡理論への大きなチャレンジだ。DSGEでは代表的家計が永遠の未来を合理的に予測し、均衡は一つに決まると想定しているが、現状では人々が自信をなくし、その悲観的な予想が実現してますます自信をなくす複数均衡が生じているからだ。
複数均衡の理論的な可能性は、20年ぐらい前にCooper-Johnなどが指摘したが、通常の不況では大した問題ではなかった。しかし大恐慌や今回(あるいは90年代の日本)のように大規模な経済危機になると、人々が「悪い均衡」に集まるコーディネーションの失敗が深刻な問題になる(これは池・池本でも指摘した)。ゲーム理論でよく知られているように、こういう場合に均衡選択の一般的なアルゴリズムは存在しない。
したがって人々を「よい均衡」に集めることが、政府や中央銀行の役割だ。本書では、こうした均衡選択における信頼の役割を信頼乗数(confidence multiplier)と呼んでいる。大恐慌のときもそうだったように、危機の本質は金融システムへの信頼が失われたことだから、FRBが大量の通貨供給を行なって金融システムを支えることは、マネーストックへの効果より信頼乗数に働きかける効果のほうが重要だ。これは意外にも、Lucasの意見と似ている。
この観点からみると、発言が二転三転して支持率が10%を切った日本の首相の信頼乗数はマイナスだから、3次補正なんかやるのは税金の無駄だ。彼を更迭することが最大の景気対策である。
ケインズの理論はIS-LM図式として教科書になり、それをさらに洗練して合理的期待理論ができた。現在のマクロ経済学の主流であるDSGEもその延長上にあるが、現在の危機はこの種の均衡理論への大きなチャレンジだ。DSGEでは代表的家計が永遠の未来を合理的に予測し、均衡は一つに決まると想定しているが、現状では人々が自信をなくし、その悲観的な予想が実現してますます自信をなくす複数均衡が生じているからだ。
複数均衡の理論的な可能性は、20年ぐらい前にCooper-Johnなどが指摘したが、通常の不況では大した問題ではなかった。しかし大恐慌や今回(あるいは90年代の日本)のように大規模な経済危機になると、人々が「悪い均衡」に集まるコーディネーションの失敗が深刻な問題になる(これは池・池本でも指摘した)。ゲーム理論でよく知られているように、こういう場合に均衡選択の一般的なアルゴリズムは存在しない。
したがって人々を「よい均衡」に集めることが、政府や中央銀行の役割だ。本書では、こうした均衡選択における信頼の役割を信頼乗数(confidence multiplier)と呼んでいる。大恐慌のときもそうだったように、危機の本質は金融システムへの信頼が失われたことだから、FRBが大量の通貨供給を行なって金融システムを支えることは、マネーストックへの効果より信頼乗数に働きかける効果のほうが重要だ。これは意外にも、Lucasの意見と似ている。
この観点からみると、発言が二転三転して支持率が10%を切った日本の首相の信頼乗数はマイナスだから、3次補正なんかやるのは税金の無駄だ。彼を更迭することが最大の景気対策である。