エルピーダメモリの坂本幸雄社長が、産業再生法による公的資金の導入を検討すると語っている。半導体産業は昔から国策産業という性格が強いので、このように政府の支援を求めることは珍しくない。しかし坂本氏も知っているように、そうやって政府が補助した企業のほとんどは業界から消えたのだ。

20年前、日本の半導体メーカーが世界を制覇すると思われ、「日米半導体協定」などの保護主義が公然と横行した。存亡の危機に立ったアメリカの半導体メーカーは、日本メーカーに「おとり発注」して「ダンピング」を告発するなど、あらゆる手段を使って政府に支援を求めた。1987年に富士通によるフェアチャイルド買収に米議会が反対したとき、ミルトン・フリードマンは「政府の保護は死の接吻だ」という名言を残したが、彼の予告どおり政府の補助金を受けたアメリカの半導体メーカーは、インテルを除いて80年代にほぼ全滅した。同じように政府の保護で生き延びた自動車メーカーは、今度こそ本当に断末魔だ。

坂本氏は、日本のDRAMメーカーとして最後に残ったエルピーダに日本テキサス・インストルメンツからまねかれ、親会社(日立とNEC)が半分ずつ株式をもって何も決まらない経営陣を一掃し、業績回復を果たした。「日本的経営」の足枷から自由な、新しい経営者として注目された。しかし彼も、「もうかったときは資本主義、都合が悪くなったら社会主義」という邦銀の経営者と同じだったわけだ。

銀行に公的資金を投入するのは、決済機能の外部性という合理的な理由があるが、政府がメーカーを補助することは正当化できない。エルピーダが倒産しようと台湾メーカーに買収されようと、納税者には関係のないことだ。アメリカではビッグスリーの救済にきびしい批判が集まっているのに、日本では当たり前のように公的支援が語られるのは、このようなソフトな予算制約が日本経済をだめにしたという教訓を、政府も企業も学んでいないのだろう。この調子では、日本はあと10年ぐらい失いそうだ。