来週発売の週刊ダイヤモンドの特集は「正社員vsハケン・対立か共存か」。私のインタビューもあるが、内容の冒頭が間違っている。私は「派遣労働者を自己責任と批判するのは筋違いだ」とのべたのだが、記事では意味不明の話になっている。

それはともかく、特集の焦点が「正社員の既得権」になっているのは一歩前進だ。菅直人氏もインタビューで登場しているが、製造業の派遣については「継続すべきか否か議論している」と後退した。当たり前だ。この不況のさなかに、製造業の派遣労働者46万人の雇用を禁止するなんて、世界にも類をみない愚劣な法案だ。「お涙ちょうだい」で集票効果をねらったのだろうが、朝日新聞でさえ世論調査で「かえって雇用が減るという意見もある」と付記して、製造業の派遣禁止に46%が反対した。

厚生族の川崎二郎氏が「雇用責任」を強調しているが、これはナンセンスだ。企業が労働者を正社員として雇用する責任なんてない。むしろ重要なのは、雇用可能性(employability)である。派遣労働者が「技能を蓄積できない」とよくいわれるが、実は日本のサラリーマンの技能の大部分もfirm-specific skillで、会社の外では通用しない。

特にひどいのは、いろいろな部署を回るキャリア官僚だ。先日ある経営者に「天下り規制がなくなったら、もっとキャリア官僚を採用するか?」ときいたら、「うちにも天下りはいるが、役所との顔つなぎ以外に使い道がない。民間の仕事を知らないくせに、プライドが高くて使いにくい」。採用するなら30代までで、50代になると「商品価値はゼロ」とのことだった。官僚もそれを知っているから、天下り禁止に激しく抵抗するのだ。

こういう文脈的技能は、高度成長期のように市場が拡大していて配置転換で需要の変動に対応できる時代には意味があったが、今のように製造業全体の規模が絶対的に縮小してゆく時代には、外部労働市場で通用する専門的技能をもっていないと、会社がつぶれたら食っていけなくなる。この意味では、正社員も派遣と同じリスクを抱えているのだ。雇用可能性を高めるには、今の若者を対象にした大学や大学院のしくみを改めて、労働者の再教育機関として位置づけ直す必要があろう。