Acemogluの論文を邦訳するWikiが進んでいるようだ:
このグローバルな危機の惨状があってもなお,大半の国ではGDP損失はせいぜい2パーセントの範囲に収まる.対照的に,経済成長のわずかな変化であっても、それが今後10年~20年積もればずっと大きな数字になってしまう.よって,政策・厚生の観点からみて,経済成長を犠牲にして現在の危機に対応するのはまずいことは自明だろう.

イノベーションはしばしばシュンペーター流の創造的破壊のかたちをとって登場するから,旧来のテクノロジーに頼る生産過程と企業が新たなものによって置き換えられることが伴う.こうした不安定性は防御すべき呪いなのではなく,その大半は市場経済にとっての好機なのだ.過去20年の発展は再配分の重要性に再び焦点を当てた.経済成長は通常,生産活動・労働者・資本が多くの既存企業からその競争相手へ,アメリカをはじめとする先進諸国が比較優位をもたなくなったセクターからその優位が強まったセクターへと移動するのと相伴って生じるからだ.

現在の刺激策の多くの特徴の帰結として明らかに再配分は悪影響を受ける.市場のシグナルは,労働と資本はデトロイトのビッグスリーからよそへ再配分されるべきであり,また高度のスキルを持つ労働者は金融産業からもっとイノベーションの盛んな部門に再配分されるべきだと示唆している.再配分が停止されるということはイノベーションが停止されるということでもある.

我々のメッセージは長期の展望に関するものだ.我々はイノベーション,再配分,そして資本主義システムの政治経済的基盤に現在の政策提案がもたらす帰結について声高く強調するべきだ.経済成長はその議論の中心部分となるべきだ.
要するに、構造的改革と創造的破壊によって長期の潜在成長率を高めることが重要であり、その中核になるのはマクロ的な「刺激策」ではなく、市場メカニズムだということだ。かつて「構造改革はシバキ的清算主義だ」などと騒いでいた評論家が、訳知り顔に「要約」を投稿しているが、彼は内容を理解したのだろうか。