1f78127a.jpg金融危機についての本が、内外ともにどっと出てきた。私は仕事の関係でひととおり目を通したが、「リーマン前」については、先月のリストにあげた以外に読むに値するものはない。1冊だけ読むなら、El-Erianをおすすめする。「リーマン後」の本は、海外ではまだ出ていない。海外の出版社は脱稿から出版まで3ヶ月以上かかるので、話題の"Bailout Nation"も1月15日発売だ。

本書は、拙速の「リーマン後」本としてはよく書けている。前半は毎日のニュースで読んだ話が多く、あまり新鮮味はないが、後半は著者お得意の歴史哲学だ。「アメリカ金融帝国」が1968年に始まったというウォーラーステインの受け売りはいただけないが、70年代以降が「ハイエク・フリードマンの時代」だったのは事実だろう。ところが日本はそれ以前のケインズ的福祉国家で、それなりにうまく行っていた。それは「日本輸出株式会社」のエンジンだったトヨタやソニーなどが、競争力の弱い国内産業を支えてきたからだ。

しかしアメリカ金融帝国のエンジンだった投資銀行が崩壊したのと同時に、日本経済を支えてきた輸出産業も崩壊してしまった。だから日米の直面している問題は性格が違う。アメリカのやるべきことは金融システムの再建に尽きるが、日本は情報革命やグローバル化に立ち遅れた産業構造を建て直すという、もっと厄介な問題に直面しているのである。著者もいうように、世界的に新自由主義の見直しが始まるだろうが、ケインズへの回帰は答にならない。アジアとの連携によってグローバル化を進めるしか、日本経済の生き残る道はない。