先日は、ロゴフが日銀の失敗を踏まえないで「インフレを起せ」という愚かな主張をしていることを紹介したが、今度はクルーグマンがナンセンスな話をしている。AFPによれば、彼はスウェーデン銀行賞の受賞会見で、こう語ったそうだ:
日本に感謝する必要があると考える。経済危機が起こりうるという現実と、その際にどういった政策が効果的で、何が効果的でないかを示してくれたからだ。 90年代の日本の経験とは、政府の財政出動が、根本的な解決にはならないまでも経済にかかる圧力をかなり軽減したということだ。
彼が何を根拠に「日本の経験」を語っているのかしらないが、実証研究によれば「公共事業を中心とする巨額の財政出動は、建設業など非効率な業種への人口移動を起して日本の労働生産性を低下させた」というのが定型的事実である(他にも同様の研究が多い)。バラマキ政策は日本経済の問題を「軽減」するどころか致命的に重くし、「根本的な解決」を困難にしたのである。

10年前にも、クルーグマンは論理的に矛盾した「インフレ目標」論をとなえて、日本の金融政策を混乱させた。その誤りを認めたのは立派だが、当時「リフレ派の立場は、世界の学界レベルではすでに十分すぎるほどの合意を得られたものなのであって、完全に決着済みなのである」(野口旭)などと権威主義を振り回した日本のエピゴーネンは、自分の言論に責任をとらないで、あいかわらず日銀を罵倒している。

アメリカのような非常事態では、緊急避難として財政支出が意味をもつ可能性はあるが、それはつなぎ以上のものではありえない。最終的な解決策は、金融システムの機能を回復することだ。それを支援するためにFRBがリスク資産を買う政策も緊急避難としては意味があるが、これも恒久的な政策ではない。日銀の非正統的な金融政策も、結果的には銀行の不良債権処理を支援したことが最大の役割だった、というのが日銀総裁や普通の金融経済学者の評価である。

ロゴフやクルーグマンが誤った「日本の経験」を語るのは、「失われた10年」についての研究があまり英語で発表されていないことが原因だろう。金融政策については日銀の論文があるが、マクロ政策全体については、日本語でもちゃんとした研究がほとんどない。正しい政策の実現にとっては、立案・実行と同じぐらいコミュニケーションが大事だというのが最近の経済学の結論だから、そういう役割を果たすウェブサイトをつくろうと考えている。

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